短編小説

□短々編集
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不思議。とても不思議。


貴方を怖いと思わない。


別に残酷なことが好きなわけじゃない。


今までだって平和に明るい世界で生きてきた。


血とか肉片とか屍とか臓器とか、なかなか見る機会もなかったし見たいとも思わなかった。


それでも、それらを見て怯えることもなかった。


「どうしてそんなに真っ直ぐな目をしてるんだ?」


コツコツと靴をならして近付いてきた貴方はそう言った。


確かに私以外の女の人は気が狂ったように悲鳴をあげて逃げ惑って死んでいった。


男の人だって同じ。


でも私は貴方が近付いてきたとき、ああ次は私の番か、なんて思いつつも逃げようとはしなかった。


所詮逃げたところで無駄なのは分かったし、それより何より、貴方に見惚れてたから。


だって、美しかった。


貴方が人を殺す様も、貴方自身も、とても。


まぁそんなことを正直に言ったなら私は変質者みたいだから、見惚れてた、とか何だとかは省いて答えた。


「自分が真っ直ぐな目をしてるかなんてわからない。でも、貴方を怖いとは思わないから怯える必要も無いでしょう?」


そしたら、貴方は面白そうに笑った。


今までの、口角をニヤッてあげる笑いじゃなくて、もっと私が見慣れてるような平和な笑顔。


大量殺人犯もこんな顔するんだって、ちょっと驚いた。


ああ、この人も人間なんだなって、思った。


「ねぇ、私を殺すの?」


貴方は人殺しだから答えなんて聞くまでもないかもしれないけど。


それでも、もう少し貴方のことが知りたいと思ったから。


「いや、止めとく」


だから、そんな答えが返ってきたときは笑顔を見たときよりもっと驚いた。


「また会おうな」


そして、私が驚いている隙にそんな言葉を残して貴方は消えていた。





気紛れ

(そんなおかしな出会いが、始まりだった)



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