短編小説

□短々編集
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机にむかってカリカリと筆を走らせていた。


童話作家として数年過ごしてきたけれど、最近作風が変わったと言われるようになった。


私もそれは感じていた。寧ろ、誰よりも明確に気付いていた。


きっと確実に、彼の影響だということも。


王子様との平和で幸せな結婚を夢見る姫の前に、きまって悪魔が現れる。


悪魔はとても美しく嗤い、姫を異世界へと連れ去ってしまう。


けれど、姫はいつしか妖しい魅力を持つ悪魔に魅かれ、ついには自らの心を捧げてしまう…。


幼い子が憧れる純粋なハッピーエンドとは、少し違って歪んでいる。


深みが出た、と言ってくれる人もいたけれど、愛らしい物語ではない。


これが良い事なのか、悪い事なのか、私にはよくわからない。


ただ、もう戻れない、そんな気はしていた。





「これ、お前が書いたの?」


執筆を続ける私の横で、興味深そうに私の本を眺めるティキ。


その真意は掴めないけど、時々私の前に現われるようになった、ひと。


そう。と答えると、よくわからない微笑を浮かべた。


「ねぇ、私を殺さないの?」


「殺されたいなら殺してやるよ?」


「随分と愉しそうね」


「まぁ、な」


私は彼に対して、好意と少しの苛立ちを感じていた。


何を考えているのか分からない。ふらりと現われてはいつの間にか消えてしまう。


どうしたらいいか、わからなくなる。


ふ、と作業の手を止めた。


貴方が綺麗な金色の目を、私に向けていたから。


「なぁ、」


「なぁに…?」


「連れ去りたいって言ったら、どうする?」


「悪魔みたいね。私は姫なんて柄じゃないのに」


どうしたらいいかわからないのに‘どうする’なんて聞かれても困る。


けれど、‘どうしたいか’ならわかる気がした。


自分が出した答えに、戸惑ってもいるけど。


「…でも、悪魔についていってみたい、かも」


平穏が壊れることに怯えてもいる。でも、考えてみれば貴方と初めて会ったときに平穏なんて無くしてるから。


そう伝えたら、可笑しそうに笑われた。






その先の世界で

(少し怖いけど、捉われてみたい)


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