短編小説

□短々編集
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白い白い布に同化しそうなほど白い肌。

横たわった肢体、広がる艶やかな髪にゆっくりと開いた目蓋の奥の瞳の色。

まるで人形のような少女の薄く開いた形の良い唇が何か言葉を発する。

音を伴わないその声が紡いだのはあの男の名前で。

けして叶うことのない夢を今日も見たのだと知る。





冷えた白い指に自分の指を絡めたら少しだけ身動いた。

名前を呼べば一筋の涙が零れる。

「ティ、キ…?」

「ああ」

まるで今やっと目覚めたかのように瞬きをひとつ。

その生気を宿した動作に少し安心して息を吐いた。

「大丈夫か?」

「ん…平気。ありがと」

「もう起きないつもりだった?」

「そうかもしれない。だから、ティキが呼んでくれてよかった」

机の上に散らかった錠剤を見て苦笑した。

中身は密かに入れ替えてあるから危険性はないはずだが。

その弱さに愛しさを感じるのもまた事実。


「どこにいた?」

「え…?」

「だから、夢の中でどこにいたんだ?」

問い掛ければ暫く悩んだあとに微笑んだ。

人形のように時が止まった微笑。

「よく、わからないの。…でも、すごくしあわせであたたかい場所だった」

「現実に帰ってきたくなかった、とか思ってるのか」

「違うよ。だってそんなこと許してくれないんでしょう…?」


嗚呼、よく御存知で。

死なんて絶対に許さない。

やっと邪魔な虫螻を駆逐して手に入れたというのに。


「ティキ、それでも今のわたしはティキをあいしてるんだよ」

解ってる。それでいい。

それでこそ、望み通りだ。






罪を生んだ腕で

(君を抱き締める時こそ、至高の悦楽)


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