短編小説

□短々編集
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雪でも降りそうな寒い日。

自分の靴音が煩いくらい響く静かな夜。

吐く息の白さに、心が弾む。

冬の澄んだ空には銀色の星。

待ち合わせはいつもの時計台の前。



前髪を作ったこと

香水を変えたこと

去年とは違うコート

凝ってみたネイル

貴方はいくつ気付いてくれるかな。

ねぇ、ずっと会いたかったんだよ?



「…悪い、待ったか?」

決まり悪そうに苦笑をひとつ。

寒かったんだから、と拗ねてみれば額に口付けられて。

それだけで冷えた指先もどうでもよくなる。

なんて罪深い人。



「忙しかったの?」

「まぁな…」

「そっか」

「寂しかった?」

「…当たり前でしょ」


私の答えなんて分かり切ってるくせに問うなんて、その態度が気に入らない。

まるで私だけが相手を好きみたいで悔しくなる。


「可愛いよな、お前」

「可愛くないもん」

「髪も、香水も、上着も、爪も、ぜんぶ似合ってるよ」

自分の息を呑む音が聞こえた。完全に不意をつかれた。

「……気付いてたの?」

「当たり前だろ?」

ティキは口角を上げて得意気に余裕たっぷりに笑う。

私は、そっと顔を伏せる。

悔しくても、嬉しくないわけがない。

ぜんぶ、ティキのためにしたこと。少しでも可愛くなりたくてしたことだから。

だから、それは赤くなった顔を見られないようにするため。

本当に、ずるい人。

この人に愛されるためならどんな努力だってしたい、とまで思わせるのだから。






身をつくしても

(逢はむとぞ思ふ)
(というより、この身を焦がしても愛してしまうから)



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