短編小説

□短々編集
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夜と死別と




血が、溢れてく。

痛い、熱い。

そんな感覚さえ奪われて。

私、死ぬんだな、なんて実感したり。

悔しいな、まだやりたいことあったのに。

あのティキとかいうノア、絶対許さない。

だって、もっと神田と一緒にいたかった。

もっと神田のこと、見ていたかったのに。





どこかから急いだ足音が聞こえる。

来ちゃったんだ、神田。

コムイに絶対止めてって言ってあったのに。

変な気、使うもんだから、神田に苦しい思いさせちゃうじゃない。





「っ!お前、なんで」

壁に凭れて座った形の私を神田が抱き締める。

私の血が神田の団服さえ染める。

「…神田…なんで来た、のよ…」

手を無理矢理にでも動かして神田の頬に添える。

「間に合わなくて悪かった」

本気で悲しそうな顔をするから、私が泣きそうになる。

「ねぇ、神田…、私、死ぬよ…。自分で分かる、の…」

綺麗な涙が神田の頬を伝って、私の添えた手に届いた。

「…泣かないで、神田。らしくないよ。…もう、まだ、ガキだね…神田も…」

「煩ェよ、黙っとけ。すぐに医療班が来る」

「…ねぇ、分かってるでしょ。…私さ、…助からないの。…ごめんね」

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」

「神田…、私、大丈夫…。淋しい、けど…幸せだったから…」

「勝手に話進めんな。お前はまだ生きてるし、まだまだ俺が幸せにすんだよ」

「…本当、馬鹿だね、神田…。そのセリフ、聞いてる方が恥ずかしいって…」

神田の苦しそうに歪んだ顔が見える。

折角の綺麗な顔が、そんなんじゃ台無しね。

「死ぬな、」

悲しくて悲しくて、胸が張り裂けるんじゃないかな、私達。

私は泣く神田に作った微笑を浮かべることしか出来なくて。

それでさえ、涙の欠片が頬を伝う。

「…ごめんね、神田。愛してるよ…」

息が苦しくて擦れる言葉。

神田の頬から落ちる腕。

はっとしてそれを止めようとする神田の顔。

静かな闇に私の名前を呼ぶ神田の声だけが響いた。





抱き締めた女の体は皮肉なほどに体温と色を失い、

男はこれ以上、女の存在が消えてしまわぬよう、時の流れに逆らうように腕の力を強くする。

そうしなければ自分の中ですら、愛した女の姿を繋ぎ止められないような気がしていた。


やがて夜は明け、男は女の亡骸を抱えたまま歩きだす。

様々な感情を織り交ぜた、強い瞳の色をして。


end...
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