短編小説

□短々編集
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新生活が始まって、1ヶ月が過ぎた。

早くも挫けたあたしはアラームを無視して布団に包まる。

最近は朝でも大分あたたかく感じるようになった。

こんなに心地いい日に早起きをしなくちゃいけない理由を、あたしは知らない。

全てが嫌いじゃない。どちらかといえば、好き。

それでも慌しい日々は苦手だった。微睡む時間が欲しくなった。





お気に入りの受信音が鳴った。

「起きてる?」

毎朝届く5文字。

「うん」

あたしの返事も大抵決まってる。



「学校行く気ある?」

「あんまり無い」

「取り敢えず迎えに行くから用意はしとけよ」

「来なくていいのに」

「いいから」



文面だけでティキの苦笑が簡単に想像できる。


毎朝、こうやって気に掛けてくれるティキが好きだ。甘えている。





しばらく経って、チャイムが鳴った。

あたしはまだ、だらだらと制服を着ている所だった。

きっちりと折り目の入ったスカートは堅苦しい。

あたしにはなかなか似合わない。



「おはよ」

「…おはよう」

ドアを開ければ笑うティキ。

「ちゃんと準備してたんだな」

「だってパジャマじゃ出れないから」

えらいえらい、と頭をくしゃくしゃにされた。

せっかく整えたのに、と言おうと思ったけど整っていた自信が無いから止めた。



「じゃあ行くか。送るよ」

「……う、ん」

「日曜にはどっか連れてってやるから」

「それ昨日も聞いた」

「駄々こねて昨日も言わせたのはお前でしょ」

「…そうだけど」



手を引かれてティキの車に乗った。

毎朝毎朝、あたしもティキも飽きないものだと思う。

今日こそは休んでしまえと思っても、わざわざ来てくれるティキを前に行かないなんて言えない。

本当に、甘えている。



「どうした?」

「…うん、なんか申し訳ない」

「うわ、似合わない言ってる」

だって、と何か言おうとしたら、笑って遮られた。

「いいんだよ、俺の前でくらいへなちょこで。おかげで毎日お前に会えてるし」

「そうやって甘やかすからあたしが自立できないんだよ」

「いや…、俺がいなかったらいなかったでお前はやっていけると思うよ」

それが淋しいんだよなぁ、とティキは訳の分からないことを言う。

「…まぁ、頼られたい側の身になって考えてみると、そんなもんだよ」

今日のティキは何だかおかしい。

それでもやっぱり、いつもどおりのティキだった。





つよくてよわい



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