短編小説

□短々編集
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シュガー


外は軽い雪が降っていて、街の照明と合わさって、まるで作り物みたいに幻想的な夜だった。
いつにも増して道を埋めるのは男女の二人組で、甘やかな曲を静かにチェロが奏でている。
暖炉の前の揺り椅子に陣取って、どうやら鍋焼きうどんが出来るのを待っていたらしい彼女は、無理に連れ出されて不満そうに顔を歪めた。
「クリスマスなんて気分じゃなかったのに」
「そう言うなって。何でも好きなもん買ってやるから」
「あたしは物で釣られるタイプじゃないの」
「知ってるさ。でも欲しいものの一つや二つくらいあるだろ?」
ふい、と顔を逸らす彼女。
その頬が愛おしくて腕を回して細い腰を抱き寄せる。
そうしていると、自分達がこの風景に溶け込んだ気がした。
顔は逸らしたままでも嫌がる素振りを見せない彼女に、にやける口元を隠すので精一杯だ。

「せっかく外へ出たんだし、ディナーでもいかがです、レディ?」
「ティキのせいでまだ夕食を取っていないの。仕方ないから付き合ってあげるわ」
コツコツと、いくらか雪で緩和された足音が二人分。
歩くうちに、彼女の目が少しずつ輝き始めたのを知る。
引きこもりがちな彼女が、実は街のイルミネーションの様子をロードに事細かに尋ねていたこと、けれど一人で行くことも俺を誘うことも出来ないほど意地っ張りであること、彼女に関することはいつの間にか誰より詳しくなった。
けれどそんなことはきっと言い訳で、本当は俺自身が彼女と普通の恋人らしくこの日を過ごしたかっただけの話だ。
「少しは楽しんで頂けました?」
「ほんの少しだけね。寒いし寒いし寒いけど」
くすくすと思わず笑いが零れる。
そんなことを言う割に、彼女の体は熱い。
「愛してるよ」
「ティキはよっぽどの変わり者だと思うわ」
「いいさ、お前に少しでも好いてもらえるなら」
「そういう所が変なの」
今日の中で初めて彼女が笑った。
ご機嫌を損ねないうちに、その薄紅の頬と小さな唇に唇を重ねる。
やけに甘くて目眩がした。


END..
(メリークリスマス)
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