現世と常世
□千日赤子
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千
日
赤
子
昔、ちょいと憎く小仲になった男と女がいた。
二人は血が近き子だった。
周囲は二人の仲を反対した。
されど、反対されればされるほど…若い二人の恋は燃えるもの。
ついに二人は周囲を押し切り夫婦となった。
ややにも恵まれ、やれ目出度いと大手を振った冬。
生まれたややは、骨がなかった。
男と女は絶句した。一族はこぞって二人を責め、咎めた。
やれ、"掟に逆らったからだ"
やれ、"人を生まなかった"
責め咎め続けた。
結婚に一番反対していたババが言った。
"連れてってもらうべぇ"
ババは言った。
"生まれた児を地につけてはならん"
と、
"千日、抱き続けろ"
二人は、顔を歪めた。
それは抱き上げるのが嫌だからではない、
抱き続ける事が苦だからなのではない。
"オラの、ややぁだぁ…"
命を定められる我が子への悔いの心。
"ごめんなぁ、ごめんなぁ"
何も知らぬ、生まれたばかりのややは笑ったように見えた。
" …めんこいなぁ…"
言葉も話せぬ、ややはただ笑うだけ。
地に触れることはないややは不思議そうに見るだけ、動かせぬ体で笑うだけ。
千日まで、残り一日になった日…
ややは熱を出した。
ぜいぜい、と苦しそうに息継ぐややに女は柔らか過ぎる体を擦り続けた。
"ややこ、ややこ…"
ややは薄く目を開けた。
話せぬ口で、ややは女に何かを語り掛けているようだった。
まるで、
《ありがとう》
と、言ったように唇は動き、静かに笑った。
"…ややこ?"
女が呼びかけるが、ややは目を瞑ったまま笑っていた。
ややは、もう息をしていなかった。
"ごめんなぁっ、ごめんなぁっ…!!"
連れていってほしくなかった。
どんな姿でもいいから、生きていて欲しかった。
だけど…
"ごめんよぉっ…"
ちゃんと産んであげられなくて、
土に触れさすこともなく、
現世に生まれたのに、現世から離された。
なのに、
現世を恨むことなく、
親を恨むことなく、
人を恨むことなく…
全てを赦している顔で微笑みを浮かべていた。
その後、その夫婦から生まれたやや達は皆不思議と強く長く生きた。
まるで、何かに守られているかのよう…
そして、それは…
「なぁ、ばあちゃん」
「ん?」
「なんで、ちっちゃな地蔵があんだぁ?」
今も、続く物語。
千日赤子、これにて終い。