特別企画作品

□まじない
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『ん?』



庭の隅っこでしゃがみ込んでいるアイツを見つけた。



何やってんだ?



こっちに背中を向けてるから見えないと思って、後ろからそーっと近付いてみる。



すると、細い木の枝で何かを書いていた。
それもブツブツ何か呟きながら。



でも何を書いてるのか何をブツブツ言ってるのかも聞き取れなくて、俺はもうちょっと近付く事にした。



……大好き………大好き……



えええっ?!
なんだよそれっ?!
だ、誰の事だっ?!




その瞬間、自分の足元に力が入っちまってその気配にお前が気付いた。



『きゃああああ〜っ!!!』



すかさず振り返ったお前は今まで見た事もないくらい真っ赤な顔で…慌てて地面の文字を消そうと、自分の手をババババッと動かしてるけど…。



『いやッ!ダメッ!見ないでっ!』



そ、そんな事言われてもよ…



お前が手で一生懸命消してる所、全く違う場所だし。



俺はちょっと首を伸ばしてその地面を覗き込んだ。



え?




『な、なに人の名前書いてんだよっ!や、止めろよなっ!』



やべぇ……
俺の名前が書いてある。



一気に俺の顔も熱くなっていく。
たぶんお前の顔と同じくらい真っ赤だろうな。




『ご、ごめんね。勝手に名前書いて…』




やっと地面に書かれた『藤堂平助』という文字を消してから、お前は頭を思いっきり俺に下げて走り去っていく。




『え?いや、いいって!名前くらい別に気にすんなよ〜っ!』




走っていくお前の背中に向かって大声で叫んでも、お前は振り返らずに行っちまった。



ちぇっ、なんだよ…
俺の事好きってブツブツ言ってたんじゃねーのかよ…



聞き間違えたのか?



そんな事を考えてたら、急に後ろから肩を叩かれた。



『よっ!平助。なにでかい声出してたんだ?』



『あいつと何かあったのか?』



振り向くとそこには、いつものオジサン二人が居たわけで…。



さっきの状況を説明させられた。



『平助。俺でもそこは叫ぶより追いかけるな。』



ええ?
なんで新八っつぁんに反論されるんだ?



『お、俺だって…追いかけたかったけど。なんか、足が動かなくってさ…』



はぁ…と溜め息を吐いた所で左之さんにポカッと頭を叩かれる。



『な、何すんだよ〜っ!すぐ殴んの止めてくれよ!』



俺は叩かれた頭を擦りながら左之さんを軽く睨み付けた。



『ほんと、お前って馬鹿だな!な〜〜んも知らないお前に一ついい事を教えてやる。』



偉そうに腰に手を置いて、左之さんが喋りだした。



『今、京の町娘の間でまじないみたいなもんが流行ってるらしい。地面に好きな相手の名前を書いたり、紙に名前を書いたりしてよ…大好きって十回唱えるんだとよ。どっかで聞いた話みてぇじゃねーか?』




なんだよ…それ…
まるっきりさっきのアイツじゃん。




じゃあやっぱり…
俺の事を?




『呆けてねーで、さっさと追いかけた方がいいんじゃねーのか?』




新八っつぁんに背中を押され、俺は一歩を踏み出した。



『左之さん!新八っつぁん!ありがとなっ!』



俺はすぐにアイツの部屋に向かった。




入り口の障子がちょっとだけ開いてて…そっと中を覗いてみると。



紙に何かを書いてまたブツブツ呟いてる……



ーーーーーピシャンッ!



俺は障子を思いっきり横に開けてズカズカとお前の前まで迫っていった。



『な、なんで?もうもうっ!見ないでよっ!』



また俺の名前が書かれてる。



ギュッーーーー



思わず目の前のお前を抱き締めちまった。



『…十回唱えてみろよ。』



俺の腕の中で一瞬ビクッとしたお前が、ゆっくり口を開いて言った。



『大好き。大好き。大好き。大好き。大好き。大好き。大好き。大好き。大好き。大…す……き…』




チュッーーーーー




抱き締めてるお前の額に軽く唇を押し当てた。



『まじないも…効果あんだな!』




お前が一生懸命まじない唱えたお陰って事にしとくよ。



本当はきっと、俺の方が先にお前の事好きになってただろうけど。



一生懸命なお前が大好きだ。


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