特別企画作品
□総司の企み
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はぁ…
ったく、大の男が揃いも揃ってなに溜め息吐いてやがんだ。
『お前らっ!飯が不味くなるだろーが。辛気臭い顔すんのやめねぇかっ!』
大広間で夕食を食べている最中に幹部の連中全員があちこちで溜め息を洩らしてるのが我慢できなくてつい、怒鳴っちまった。
まぁ、無理もねぇんだが。
あいつが体調を崩して寝込んじまってる。
はぁ…
『そーゆー土方さんだって、さっきから何回も溜め息吐いてんじゃん。』
ちょっと離れた所から聞こえた声は平助の声。
俺がぎろっと睨み付けた先には、原田が平助の口を押さえつけている姿。
『な、なんでもねーよ、土方さん。さ、飯が冷めないうちに食べちまおうぜ!』
仕方ねえ。
原田に免じてさっきの声は聞かなかった事にしてやろうと思った矢先。
『一番辛気臭い顔してんのって土方さんだよね。ねえ、みんなもそう思わない?』
『『『『っ!!!!』』』』
その場に居る総司以外の四人が一瞬にして固まった。
『なんでみんな黙ってるのかなぁ?僕、目はいい方だと思うけど。ねぇ、新八さんもそう思わない?』
一斉に新八の方へと俺の視線も他の連中の視線も集まった。
『へっ?!ななな、なに言ってんだよ総司。土方さんの顔は……な、なぁ、左之、なんていうか、ぁあ!いつもと変わんねーよな?なっ?』
新八から振られた原田が一瞬俺の顔をチラッと見てから、新八の頭を一発軽く殴ってから言った。
『当ったりめえだろ!土方さんはいつもと変わんねぇよ。変に動揺すんなって。なぁ、斎藤?』
今度はその原田が斎藤に視線を送る。
『今は飯の時間だ。飯の事だけを考えた方がいい。総司も余計な口をだすな。』
そう言った斎藤も箸を進める前に俺の顔をチラッと見やがった。
『斎藤の言う通りだ。黙って飯を食えっ。』
そう言って俺が箸を口に運ぼうとすると、総司がニヤニヤしながら俺の前にやってきた。
『土方さん。いつも一言多くてごめんなさい。いつものお詫びにさ…美味しいお酒が手に入ったから少しお裾分け。飲んでよ。』
強引に箸を手から取られお猪口を持たされた俺は、あっという間に総司から酒を注がれてしまった。
一杯くらいは付き合ってやるか。
改心したとは思えないが、素直に謝ってくる事なんざなかった総司がこうやって謝ってきたんだ。
これを受け止めてやらなきゃ男じゃねぇよな。
そう思った俺はなみなみ注がれたそのお猪口に口をつけて一気にくいっと飲み干した。
カァッーーーー!!!
途端に喉の奥が熱くなり身体中まで熱くなった。
普通の酒じゃねえ…。
くっそ…総司の奴…。
『ね?美味しいでしょ?特別に美味しくて強いお酒。土方さんになら一杯で十分、だよね?』
楽しそうに俺の顔を覗いてくる総司に怒鳴りつけてやりてえが、喉の奥が熱くて声が出ねえ。
『そんな顔で見ないで欲しいなぁ。いつもお世話になってる土方さんに恩返しがしたいっていう気持ちは本当だよ。これから分かるから、ちょっとここで待っててね、土方さん。』
総司がそう言った意味が俺にはさっぱり分からねぇ。
恨みがあるようにしか思えねぇだろっ!
そんな事を考えている間に、他の連中もさっさと飯を食って各自お膳を持って広間から出て行った。
チッ、誰も介抱してくれる奴はいねぇのか。
俺も嫌われたもんだな…。
はぁ…
また俺は知らず知らずに溜め息を吐き出し、酒が回ってきたせいで意識が遠退いていった。
う……ぅ…
あの一杯だけでこんなになっちまうなんて…。
どんだけ強い酒飲まされたんだ、俺は。
ん?
大広間に俺は居たんだよな?
この天井は俺の部屋じゃねぇか。
『大丈夫ですか?』
聞きなれたその声が頭の上から聞こえてきて頭だけを上に向けた。
そこには体調を崩して寝込んでいた筈のお前の姿が。
『お前、具合はどうした?こんな所で何してやがる。』
お前の顔を見てほっとしてる俺の内心を気付かれないように、わざと冷たく言ったつもりだったが。
『土方さんに頂いたお薬のお陰でもう大丈夫です。』
そう言ってにっこりとするお前の笑顔が俺の頭痛を和らげてくれた。
『沖田さんが部屋に運んでくださったみたいですよ。私の部屋に来て、土方さんが倒れちゃったから看病してくれって…。一体どうされたんですか?』
総司…。
ったく、余計な気ぃ回しやがって…。
『何でもねぇよ。ちょっと酔っちまっただけだ。』
心底ほっとした顔をするお前を俺は無意識に引き寄せ抱き締めていた。
布団の上で横になっていた俺の上にお前の全身が無防備にも倒れこんでくる。
『そんなほっとした顔してていいのか?俺は今酔っ払ってんだ。……このままお前を襲っちまうかもしんねぇぞ?』
一瞬びくっと肩を震わせたお前が身体の力を抜いたのが分かった。
『土方さんになら…襲われても…いいんです。』
なんて事言いやがる。
こんな返事を聞いちまったらもう、襲うしかねぇだろ。
『途中で止めろって言われても止められねぇ。』
黙って頭を縦に動かしたお前の顔を両手で包んで、お前のその柔らかそうな唇を貪り始めた。
ちゅく、ちゅく…
総司はこの為に俺に酒を飲ませたのか?
なんでだ?
ま、ありがたく頂くとするか……。
とにかく今は、目の前のお前をどう啼かすかだけに集中する事にした。
続く→
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