特別企画作品
□満天の星よりも
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巡察から戻った俺はすぐに副長の部屋へ向かい今夜の報告を済ませた。
このところ特に浪士達の不審な動きも感じられず平和な日々が続いているが、こんな時ほど油断は禁物だ。
そう思いながら自室へと戻る途中、ふと夜空を見上げた。
俺の目に満天の星空が映る。
まるで降り注いでくるような星の群れ。
俺は暫くその場で立ち止まり星空を見上げていた。
クシュンッーーー
後ろから聞こえたくしゃみにハッとして振り返ると、そこには震えながら自分の手を擦り合わせているお前が立っていた。
「そんな所で何をしている。」
そう言いながら俺が目の前まで行くと、お前は震えながらも背中をぴんと立て俺の瞳を覗き込んでくる。
「すみません。星が綺麗だったので少し見に来たらちょうど斎藤さんがいらっしゃって…。」
そう言って自分の手を合わせてはぁ〜っと息を吹きかけているお前の手を、気付けば俺は自分の手で包み込んでいた。
「す、すまぬ。」
慌てて手を放すと今度はお前が俺の手を包み込んでくる。
「斎藤さんの手の方が冷えてます。」
あまり寒さを感じない俺だが、何故か急に身体が冷えている感覚がして思わず目の前に居るお前を抱き締めた。
「こうしていると暖かい。」
すると俺の腕の中で小さく「はい」と答えたお前が俺の胸に顔を寄せてくる。
「これでは星が見えぬな。」
俺はお前の身体を少しだけ放し肩を抱き、夜空が見えるように俺の隣へ並ばせた。
「綺麗ですね。」
そう言ったお前の横顔を見ながら俺は思った。
満天の星空よりも今はお前の横顔を見ていたい…と。
「斎藤さん?」
不意に俺の顔を覗き込んできたお前に、見惚れていた事を悟られぬように言った。
「……綺麗だな。」
心の中では星空よりも「お前が綺麗だな。」と……。
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