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寡黙と憂鬱に咲く[3]
7.
岡田似蔵とは、深夜の静けさのようなセっクスをする間柄だった。
年が20以上離れていて、若者同士のような無茶がなく、騒々しさもなく、ただ抱き合って、
様々なところをじっくり探られて、高杉はいつも、吐息と一緒に果てるのだ。
「愉しんでるかい…?」
みずみずしい唇をちゅっ、ちゅっ、と弾きながら、その皺の寄った二本の指は、高杉の中を泳いでいた。
彼の愛撫は、銀八のような荒々しさがなく、時として退屈、と思われることもあったが、
その代わり、その年齢特有の嫌らしい声質というのか、ねっとりとした囁き方というのか、
高杉を昂ぶらせるのは、実際の快感ではなく、声であった。
「晋ちゃん…俺のちンぽ、どうなってるかい…?」
高杉の聖穴に3本目の指を滑り込ませながら、自身の卑棒を握らせる。
「すごく…堅く、なってる…」
「気に入ってくれるかい?」
似蔵が陶酔の面もちで見据えてくるので、高杉は淫猥な笑みで肯定の意を告げる。
「あぁぁぁ…」
裏の壺をぐっと押されて、あられもない声がこぼれる。似蔵は嬉しそうだ。
似蔵とはハプニングバーで知り合った。会員の中でも似蔵は年長者だったが、
会話の中で、何処となく惹きあう部分があり、プレイルームに行って、そこで関係を持った。
「このちンぽ…晋ちゃんのココに挿れたら、きっと気持ちイイよ…」
「ん…ん…」
「痛くないようにゆっくり挿れるから、ねぇ…?晋ちゃんのココに、ぶち込んでいいかい?」
似蔵には、高杉が真珠の宝石にでも見えているのだろうか。可笑しくなって、くすくす笑うと、
似蔵も一緒に笑って、高杉の身体を仰向けに寝かせ、開脚させる。
「あ、ぅ…っ」
「大丈夫、すぐにとろけるように、ヨクなるからねえ…」
徐々に高杉の肌に慣れさせ、推し進めて行くと、高杉はゆっくりと息を吐く。
体積のある発熱体が奥まで埋め込まれると、似蔵は高杉の足を両肩にかけて、
「ああ…気持ちイイよ…晋ちゃんの中」
眉を寄せて、まるで恋人に対する愛の囁きのようにして、そっと、そこを突いた。
「あ…あ…あぁ…あン…」
「可愛い声だねえ…もっと、聞かせてくれないかい?もうちょっと、動いていいかい…?」
優しすぎる男に対しての笑みは、自分の意志というよりも、だんだん譲歩のようになってきて、
どうしても苦くなる。
「ぁっ…はぁ…に…ぞう…お願、い…」
「何だい?」
「激しく、して…」
自分に好意を抱いてることは分かる。だがその好意から来る、余計な躊躇はしないでほしい。
残念ながら、自分はあなたに、セっクスしか求めてないのだ。
「退屈させてしまったね。悪いね…」
長くは見つめていられなかった、その哀しい面持ちを。
その後、言うとおりにしてくれるのも、有難いのだけど、あれこれ難しいことを考えながらのセっクスなど、
ちっとも満足がいかないのだった。
「次は、いつ抱き合えるかね…?」
帰り間際に必ずこういう言葉をかけてくる。
この男は酷く哀愁漂う人物で、これまではその場で約束を入れてやらないと、
可哀そうな気がして、先日もそんなふうにして、今日に至ったわけだが、
そろそろ高杉自身、気持ちの余裕もなくなってきたので、
「ごめん…」
今日が最後だと、その意味を一言にまとめた。
彼は少しの間呆然とし、その後苦笑を織り交ぜて、
「いかんねえ…この年にもなると、つい“一生”というものを考えてしまってねえ…」
「………」
「俺みたいな男に付き合ってくれて、すまないね…」
そのまま背を向けて、朝日の下に溶け込んでいった。
こんな気持ちになるくらいなら、もう少し、別れを早めておけばよかった、と、
高杉は携帯の液晶画面を開き、岡田似蔵の名前を、二度と拝めないものにした。
8.
銀八の、あの凶暴な肉塊を思い出す度に、高杉は自分を拷問にかけ、吐かせていた。
今の自分には、あの男の身体が必要だ。
そうして再び連絡を入れたのは、似蔵と別れてから、2日も経たないうちだった。
明日、明後日の土日は駄目だと言うので、間が空いてしまうが、その次の月曜を希望すると、
「今日にしよう」と銀八は言う。
唐突のことで即答が出来なかったが、自分は出来るだけ早く抱かれたかったので、了解した。
大学の5限に出てしまうと、18時に間に合わないので、その日は途中まで顔を出し、
家の用事を理由に、そそくさと教室を出て行った。
自分の性欲を抑制する、この公の場から、早々に逃れたかった。
すぐにでも落ち合いたかったから、この前と同じホテルにしてもらった。
ホテルに辿りつく前に、駅を出てすぐの横断歩道で、偶然にも銀髪の長身を目に止め、
あ、と思い、浮ついた足取りで追いかける。
名前を呼ぶと、彼は足を止め、鋭く振りかえると、
「よう」
咥え煙草で手を挙げた。高杉もつられて手を振り返す。
「今日でよかったのか?」
「ああ」
短い返事の後、すぐそっぽを向く仕草は、それ以上余計な心配はしてくれるな、という明らかな意志表示だった。
取り留めのない話を挟みながら、ホテルに直行する。
受付で鍵をもらうと、官能的な空気に包まれてエレベーターに乗り込む。
密室に入るまで会話はなく、その不気味な沈黙が、これからの快楽地獄の前兆なのかもしれないと思った。
お互いの歪んだ欲望を知った後だったので、部屋に入ると、火がついたように事は始められた。
「ん、んうっ」
「欲しかったか?」
「う、ん…」
高杉は息を弾ませながら頷く。これだ。この熱だ。
ベッドにも行かずに、扉の前で、銀八と熱っぽく唇の儀式をして、壁に胸を押しつけられると、
背後から、銀八のあの、荒くれの愛撫が始まった。
乏しい胸の肉を揉みしだかれ、股間を弄ばれながら、服を裂く勢いで脱がされ、ほぼ全裸に近い状態にされると、
銀八の顔の位置が下へと降り、不浄な裏の孔に、舌を強引に差し入れ、踊らせてきた。
「あっ…はあ…あぁんっ、あ…あ、あああ、イイ…っ」
排泄の入口に歯まで立てられ、ずるずると貪り立てられるだけでも、高杉の身体は淫鬼の虜になり、
恥ずかしいほど悦がり声を轟かせていた。
「もっと辱められてえか?」
「ん…」
「縛るか?」
「んっ」
喜悦の汗を滲ませて、強く首肯した。
どんなに卑猥な要求をしても、この男はそれを上回る、根っからの獣である気がしたから、
高杉は安心して、本能に身を委ねることが出来た。
「今日は手首だけだ」
服を脱いだ銀八が、ネクタイで高杉の二本の手を、頭上で一つに束ね、縛った。
ベッドの傍のソファに銀八が腰を下ろし、高杉を膝の上に乗せる。
耳の後ろを舐められながら、足を広げられ、欲情した肉の筒を弄ばれる。
「あぁ…っ、あっ、ぁ…あんんっ、んあ…っ」
「今にもイっちまいそうだな」
「ん、イっちゃ…いそ…っ」
春色の実りを二本の指で摘まれると、高杉は一層声を引きつらせ、自然と腰が浮いた。
「ここにちンぽが、欲しいだろ?」
いきなり二本の指が、真っ白い双丘に潜りこみ、
「ああっ」
円を描いて、痛いほどに攪拌してきたので、高杉は投げ出した二の足を夥しく痙攣させる。
すぐに淫涙の音が聞こえてきて、たまらず喘いでしまうと、指を引き抜かれて、それを眼前にちらつかせてくる。
「こんなに汁まみれにしやがって…啜り取ってやろうか?」
立たされて、銀八は高杉の股の間に入る。上向いて、既に唾液と汗で露だくになった聖穴を押し広げ、
しゃぶりついてきた。
「ああっ、ああんっ、あんんっ…や、それっ」
「お前のケツの穴、男の口にされんのが好きみてえだな。あ?もっとか」
「ああっ、やめてっ」
違う。もっと、だ。
ずるずると下品な啜り方をしてきて、顔を左右に振りながら、高杉のそこを嬲ってくる。
高杉はもう立っていられず、美門を舐められ続けると、膝が崩れて、短い悲鳴を上げてイってしまうと、
抱っこされ、ベッドに仰向けにさせられる。銀八が乗り上げてきて、両脚を左右に割られた。
「ちンぽ挿れてくれ、って、言ってみ?」
切迫した息使いの高杉に吹き込んでくる。
唇が耳に触れるだけでも、今の高杉はそそり立てられてしまうのだ。
「挿れ、て……」
「何をだ」
「…ちンぽ、を、挿れて…」
顔が熱にうなされ、そこは灼熱地獄の温度になる。
銀八が満足気な笑みを浮かべ、
「普段なら焦らすところだが、言うとおりにしてやる。お前の極上なココを思い出すと、
どうも我慢が利かなくなるからな」
腰を押し込んできた。
欲してたまらなかった神々しい欲棒の訪問に、体内が血を逆流させる。
「ああっ、あああっ!イイっ!イイっ!」
待っていた、と言わんばかりに、高杉は口の奥から醜い本性を晒す。
ずかずかと壁を突き破るようにして暴れ、中でますます堅さを見せる隆起物。
銀八のソレと、自分のココが、求め合い、犯し合う関係となれたことに、全身が悦んだ。
「俺のちンぽが好きかっ?こんなに、締め付けやがってっ」
「あ、ああんっ、す…き…っ」
「聞こえねえよっ、大声で言ってみろっ」
「、すきっ…好きっ」
それが膨らんでくる。体積を増してくる。
そんなに激しく刺してきては、胃腸や心臓、食道を突きぬけて、喉から出てきてしまうのではないか。
「ああっ、イイのっ、銀八のちンぽが、好きっ!」
「はっ、この前より言うようになったじゃねえのっ。もっと言えよ、牝豚がほざくような猥語を、
お前の口から沢山聞いてみてえもんだ」
肉同士の下卑た爆音を立てながら、腰をぐいぐい押しこみ、高杉を責め立てる。
「ううんっ、イ、イクっ、イっちゃうっ」
「中に欲しいかっ?口に欲しいかっ?え?どっちをぐちゃぐちゃにして欲しいんだっ?」
「な、中…っ、ああはっ、中にちょうだいっ」
思わず縛られた両手を口元に宛がい、指先を噛む。
「ああ、もう、出ちゃうっ」
喉が詰まって、同時に腹部に白い雨が降る。愛し合っている部分からは、情欲の熱が溢れていた。
早い深呼吸を繰り返した後、銀八が何かを思いついたような顔付きになり、
「おい、もっと熱くなってなりてえだろ?」
耳の奥に舌を擦りこませ、破れやすい繊細な壁を擽ってくる。
いくら欲望を放っても、すぐに次の欲望を植え付けられ、高杉の呼吸は落ち着く間もなく、
熱に魘され、乱れてしまう。
「…はぁ…っぁ…あン、」
「甘い地獄、見ようぜ?なあ、坊や…」
「あっ…」
首筋を舌で強めになぞられると、総毛立ってぞくぞくし、高杉は鼻を鳴らしながら、白い肢体をくねらせる。
高杉の身体に熱を入れ直すと、銀八は床に手を伸ばし、寝転がっている通勤鞄を引き寄せる。
高杉は半開きの視界で、銀八の取り出した“奇妙な正体”を捉える。ああ、あれだ。
あの発熱して、逆上せ、意識が薄らいでいく感覚。その後に来る、とてつもない、とろけるような、地獄の感覚。
この間よりも一回り大きい、官能色の瓶の蓋を器用に開けると、高杉の身体が強張る。期待の強張りだ。
「お前となら、無くても愉しそうだが、あったほうがもっと愉しめるからな」
そう薄ら目で笑うところは、加虐性と、何処となく被虐性も兼ね備えている気がした。
瓶を傾けると、高杉の虚を衝くように、銀八は自らの喉に流し込んで行った。
大胆なことをする。喉の動きを見ていると、かなりの量が、食道を通っている。
「酒より飛べんな、コレは。お前も飲め」
既に銀八の呼吸が上がっているのを、高杉は肌と、以前の経験を持って感じ取る。
半分飲んで、もう半分を何回かにわけて銀八は口に含み、高杉に口づけて、喉に通して行った。
「んんっ…んっ…ぅ、っんふ…」
「ん…はっ、零すなよ…」
高杉は体温が高くなっているのを自覚し、また銀八の肌も火照って、頬が綺麗な薄紅に染まっていた。
瓶を空っぽにすると、傍のソファに投げ、高杉の縛られた両手首を頭上に戻した後、高杉の上から被さり、
この男にしては珍しく、しっとりとした口づけをしてきた。
「お前には特別、“違う愉しみ方”も教えてやる…」
この時の、艶美な表情を、高杉は一度だけ見たことがあった。
銀八が雄の顔を一変させ、掌を自らの片胸に宛がう。
ゆっくりと、撫でまわし始めたのだ。
「っあ…あ…あ……」
高杉は息を呑む。
銀八が自身の胸の実りを指先で捏ねながら、眉を寄せ、悩ましげに声をあげている。
これでは、牝が自身を慰めるのと同じ。
眼前の光景に圧倒されるが、その一方で、この男の美しさに魅せられる自分がいて、高杉の中で、
実は少し前に身ごもった未知の欲望が、芽を出して、凄まじい勢いで成長してきた。
「お前も…」
心臓をくっつけられる。
次の瞬間、円を描くように動き始める銀八に、高杉は痺れを起こした。
銀八の乳首を、高杉の乳首に擦りつけてきて、双方の欲を煽っている。
「あっ、あ…あん、あ…ぎ…ん…っ?」
「ん…はぁ…どうだ…?お前の、ん…っもう堅いじゃねえか…」
まるで女同士の睦み合いのようだった。
異色の感覚だったが、銀八とこのような行為をすることに、高杉は逆上するような興奮を覚え、
とろけるような音をあげてしまう。
「はあん、ぁあ…あ、…ああんっ…」
「っ…お前のも、俺のも、すっかり…勃っちまって…ああ…っ、乳首だけで、イっちまいそうだ…」
貫かれる快感には劣るが、精神的に気が狂いそうなほど興奮して気持ち良いのは、こういう類のものか。
「お前の、美味そうな色をしてやがる…」
胸を離した銀八が、舌を出して、下劣な音を出して、高杉の突起を吸い立ててきた。
「ああ…っ、だめ、そんな、強くっ」
薬が入ると、恐ろしいほど敏感になるのが、その二つの若い実だった。
「ん…俺のも、食ってくれよ…」
唇に胸の突起物を押しあてられると、やむを得ず、高杉は口を開く。
自分と同じような感触を、銀八も味わうのかと思うと、頭が痺れて、震える唇で、
銀八の片方の胸のそれを、愛撫し始めた。
「ああ…っ、く…イイ…っ、もっと、激しく、舐めてくれ…」
本来の、つまり雄の本能が、この時高杉を支配した。
自分の与える愛撫で、甘い声で泣く銀八に対して、夢中になって、舌を躍らせる。
だんだんと声が大きくなって、銀八は我慢の限界だったのか、胸を高杉に嬲られながら、
「そろそろ…イこうぜ…」
自身のよこしまな欲塊と、高杉のとを手の中に収めると、擦り合わせてきた。
「ああんっ」
「ああっ」
二人で、艶やかな悲鳴をあげ、数回繰り返して、性の証をお互いの腹部に散らせていった。
ふう、と額を拭いながら、銀八は高杉に一度口づけをし、うっとりとした表情で見据えてきて、
「次は…こっちだ…」
弾んだ息で、身体の位置を変え、恐らく高杉ほど使っていない綺麗な裏の門を、
高杉の面上に沈めてきた。
その鮮烈な景観に、高杉は眩暈さえ覚え、まるで神々しいものにでも触れるような気持ちで、
舌を、そこに滑らせてみた。
「ああっ」
銀八は驚くほど、凄まじい反応を見せた。
喉を仰け反らせて、指先を噛む仕草。
まさか銀八の菊座を舐めるとは夢にも思わず、高杉はただ頭をくらくらさせながら、
猫のような舌使いをした。
「ん、んんっ…ぁ、ああ…っ、奥の方にも、舌を使ってくれ…っ」
先ほどの、自分を言葉で嬲って、勇ましい肉棒で貫いてきた男の面影はどこにもない。
こんな話を聞いたことがある。
サディストの裏返しは、マゾヒストだと。
そうか。彼はだから、高杉が欲している言葉が、セっクスの仕方が分かるのか。
「そこっ、そこだっ…ああっ、イっちまうっ」
聖門を犯されて、自分は前の欲塊を扱きながら甘ったるく呻いて、一瞬激しく身を奮い立たせると、
高杉の腹部に、雄の液を吐き出して行った。
慣れない行為をしたからか、銀八は疲労の苦笑をこぼし、横揺れになりながら、四つん這いで下へと行き、
「お前のも、たっぷりしゃぶってやる」
牝同士のような睦み合いに煽られて、物欲しげに見上げている高杉の柔茎を、口の粘液で包んだ。
「はああっ…ああっ、っ、」
夢中で吸いついて、唇の先で嫌らしく弾く音。何と言う淫らな食い方だろう。
舌の滑らせ方や、唇の力の入れ方。音。
何もかもが高杉にとって絶妙で、地獄で、いつもの、下の潤いに反比例して、凄まじい勢いで渇いていく感覚を、
高杉は忘れることが出来た。
「お前のコレ、俺にしゃぶられて、どんどん膨れ上がってくぜ?」
「うあっ、ああうっ」
「何だ?もっと激しくしねえと、満足できねえか?」
「いやああっ」
根元までかぶりつかれ、ずるずると吸われていくと、嫌々と言いながらも、底知れぬ喜悦に揺り動かされ、
「イ、クっ」
銀八の喉に、吐液を流下させていく。
欲を放った際の反動も、吐精を重ねる毎に大きくなっていて、高杉は放心の目で、全身濡らして、
もう自力では起き上がれない状態だった。
口を拭った後、男があの甘美な笑みを浮かべ、高杉の顔をまじまじと覗きこみ、手首のネクタイを緩めながら、
「ほら、腕をまわせよ」
いつになく優しい口調で、言われた。
圧迫されていた部分が涼しくなり、高杉はぶらぶらの手を、銀八の首の後ろで組ませ、しがみついた。
よっと、銀八が後ろに少し倒れ、胡坐を掻いて、抱きしめた高杉を座の中に入れる。
下から、未だいきり立っている男の象徴が、忍び入ってきた。
「ん…っ」
「力抜いてろ。このまま極楽に連れてってやるから」
極楽。高杉は、脳天から突き抜けるような、あの銀八に与えられた絶頂感を思い出し、美門をぐっと引き締めた。
連れてってくれ。どうせなら、この厄介な思考回路というやつも壊して、何も考えない、
不良品にしてくれても構わない。
「はあっ!ああぁ!ああん、イイよおっ」
自分は子供のように泣いていた。
身体から心が離れるような、浮遊感を味わい、高杉は自分のおぞましい声を、壁何層にも隔てられた場所で聞いていた。
「ううっ」
狂人の力とは恐ろしいもので、銀八はその一度の締め付けだけでも、残り物を絞り取られてしまいそうな気がした。
「すげえなっ、お前のこの、ど淫乱なケツの穴が気に入ったよ、俺は」
「ああんうっ、あ、あ、あ、やだっ」
「何が嫌だって?ちンぽが好きで好きで、たまんねえって、言ってみやがれ!」
「はうっ、やっ、も、どうにか、なっちゃうっ」
「ケツの穴で、もっとちンぽしゃぶらせてくれ、と、俺に懇願しろよっ」
精神が内と外を行き来している。ぐいぐいと内壁を押し嬲られ、高杉は大口を開けた。
「ああっ、ちンぽしゃぶらせてっ、いっぱいっ」
「言葉が足りねえだろうがっ」
「ひいっ、ケ…ケツの穴で、しゃぶらせてっ……ああん、堪忍してっ」
銀八の罵声を浴びて、自分は半ば消えかけている悲鳴で、どん底の言葉を轟かせて、恥に悦び震えて、
意識がシーツの中に沈んでしまうまで、続けられた。
9.
ひっそりと、低い話し声が、高杉の朦朧とした頭を揺り動かした。
自宅のベッドと同じくらいの心地よさが、そのシーツにはあったが、それは全身の疲労の証明でもあった。
眩暈で回転してしまう視界を、少しでもマシなものにしようと、額に手を宛てて、高杉は上体を起こした。
「ああ…明日?…わかった……何時頃行きゃいい?…12時……弁当は?……俺が作んのかよ…」
ベッドから離れて、何やらこちらの様子を伺いながら、銀八が携帯で電話をしていた。
会話の内容は僅かだが、聞き取れた。明日。弁当。何の話だ。
「悪い、“同僚”が来たから切るぜ」
高杉が目を覚ましたのを確認するや否や、銀八は手早く話を切り上げて電源を切った。
これではまるで、邪魔者扱いされてるみたいだ、と、高杉は些か、居心地が悪くなった。
「よう、起きたか。帰るぞ」
携帯を既に着用済みのズボンのポケットに仕舞いこんだのを、高杉は視界の片隅に入れる。
誰と話していたのだろう。少なくとも、この不浄な関係を知られてはまずい相手、だということは確かだ。
「恋人?」
電話での自分の扱いが少なからず不愉快だったので、聞いてみた。
自分たちは元々、素性もよく知らない間柄なのだから、聞いてもどうしようもないし、意味のないことかもしれないが。
銀八が一瞬無言になる。言うか言うまいか、葛藤の時間だったらしい。
その後はすぐに開き直った表情で、「隠すほど、大層なもんでもねえしな」と前髪を掻きあげた。
「女房」
軽い調子で言い放たれた事実に、高杉は心底驚かされた。
「結婚、してたのか…」
そういう反応しか出来なかった。
「もう5年になる」
「そうなんだ…」
長いな、というのが正直な感想だ。
既婚者というイメージはまるでなかったし、してたとしても、年単位で家庭に収まる男には見えなかった。
だが、子供までいる、と聞いた時は、驚くだけでは済まされなかった。
5歳児の娘、だという。つまり結婚した直後、またはその前に生まれた、ということになる。
「いいのかよ…」
「何が?」
「俺と、こんなことしてて…」
自分たちは恋人同士でもないし、妻子持ちの事実が発覚したところで、責めるつもりもないが、
高杉にとって、その事実は酷く、重く受け止められて、自分がそんな小さな子供を、
父親とグルになって騙している、ということが、何だかとんでもない大罪を犯している気分にさせられて、
胸を潰されそうになった。
「実際、家庭なんてこんなもんだ。俺は一刻も早く離婚届を出したいんだが、ガキがいると、慰謝料だの、教育費だの、
面倒な事情があってね。女房は専業主婦だし、自立してねえから許してくれなくてね」
そう言って、かったるそうに溜息をつく銀八が、悪魔のように思えた。
自分はこの男が、まともな人間だという期待でもしてたのだろうか。
「それが重荷だってなら、今すぐにでも俺の連絡先を消しゃあいいだろ。んな落ち込んだ面されても、
俺は変わる気はねえからな」
「………」
結局、それだけの付き合いなのだ。赤の他人の事情にいちいち動揺していることのほうが、
愚かしいのかもしれない。
気まずい空気をホテルの外まで持ち出して、いつもの曲がり角のところで別れようとした際に、高杉は携帯電話を開く。
アドレスを消そうと、その時は思っていた。
多分この男といると、情事を繰り返すごとに育っていく、あの“面倒な”気持ちを抱かざるをえない気がしたから。
「残念だな。俺はお前を気に入ってたんだが…」
銀八も恐らく、高杉の様子を見て、次の約束はない、と判断したに違いない。
苦笑の溜息と共に、背中を向けて去っていく男に、高杉は振りむきはしなかった。
銀八に抱かれた感覚が、連絡先の消去はもう少し考えてから、と決断の時を延ばし、携帯の液晶画面を閉じる。
その後、高杉は連絡をしなかったし、勿論向こうからも、なかった。
だが彼との三度目の情事は、2週間後、神の気まぐれという奴で、あっさり実現させられてしまった。
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