僕と君との過負荷な日々。


□第-1箱『本当に心が痛むよ』
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ーーどうしよう……。

放課後。人気のない学校の廊下で千衣は、あるドアの前で一人悩んでいた。

ドアの横には、生徒会執行部と書かれたプレート。


ーー生徒会に相談をしたい。相談をするためにここにきたんだから。
でも、生徒会が変人ばっかりだから、どうしても最後の一歩が踏み出せない……。今までこういう、いわゆる非日常な人達とはほとんど接点がなかったわけですし。

生徒会室の前で、一人考え込む千衣。
彼女も、はたから見れば変人に見えただろう。

しばし考えこんだ後、 千衣は心を決めた。

ーーうん!やっぱり相談なんて辞めよう!これは自分で解決しろってことなんだ!よし、悩んでるくらいなら帰りましょう!


そして千衣は、生徒会室の前から回れ右をし、そのまま自分の家に帰る……はずだった。

彼に会うまでは。


「『あ、帰っちゃうの?生徒会にケンカでも売りにきたのかと思ったぜ』」

生徒会室の前で回れ右をした所までは予定通り。
だが、回れ右をした先に。

「……く、くっくくく!?」

箱庭学園の制服ではない学ラン。
貼り付けたような笑み。
副会長の腕章。
ーー球磨川禊が、目の前に立っていた。

「『なにそれ?君の笑い声?いやー、面白い笑い方をするんだね!世の中は広いなあ!』」

「く、くく球磨川……禊……!」

ーー確か、過負荷、なんてたいそうな名前で呼ばれてる人たちの親玉で、生徒会と戦って、なりゆきで副会長になったっていう……あの……

「『おいおい、どこぞのゲームのラスボスみたいに僕の名前を呼ぶのなんてやめてくれよ。びっくりしちゃうじゃないか!』」

逃げた方がいいのかもしれない。

だが、球磨川に気圧されてしまった千衣はそこから動くことができなかった。

「『あれ?聞こえてる?もしもーし?』」

球磨川はそう言って、千衣の顔をのぞきこむ。

「『もしもーし? あれ、聞こえてないのかなぁ。うん、反応がないってことは、何をされても文句は言わないね!ようし、スカートをめくってやろう!いち、にの「っさいわ!聞こえてるわ!ていうか黙れ括弧つけんな黙れ死ね!」




――やっちゃった。
気が動転すると、見境なく口が悪くなっちゃう悪い癖が……!
藤野千衣、16才。
お母さんごめんなさい。今日で人生が終わります。
ああああ!本当に、スカートをめくろうとしてきたから思わず言っちゃった。初対面なのに!あの球磨川に!というか初対面でスカートめくろうとする方がおかしい。
とにかく、学校一の狂人に死ねとか言っちゃって、むしろ私が逆に死んじゃいますよって話です。
螺子ふせられてゲームオーバーです。
返事をしなかった私が悪いとかいやいやそんな、返事をしなかっただけでセクハラしてくるほうが異常ですよ……。


そんな千衣をよそに、球磨川は笑顔を崩さない。

「『なーんだ。ちゃんと聞こえてるんじゃん。せっかくのチャンスが台なしだぜ。
ま、それは置いといてさ。君は僕に死んで欲しいんだって?初対面の誰かさん」』

「いや、あれは勢いっていうか…その……」

「『昔なら死ねたんだけどさぁ、僕もう大嘘つき使えないんだよねー。
だから、君のお願いは聞けないや!ごめんね!本当に心が痛むよ!』」


ーーいやいやいやいや。
怒るどころか、なんでそんな本気で自分が死ぬ事考えてるんだこの人。
噂以上にいかれてますよ……。


「『で、君、ケンカを売りにきたわけじゃないとしたら、生徒会になにか用事があったんだろ?
僕で良かったら話を聞くぜ』」

球磨川ににこやかに対応され、更に戸惑う千衣。

「いえ、あの、大変申し訳ございませんが、結構です……!」

ーーこんな人の相手はしてられなません!

千衣はそう言って、生徒会室の前から走り去った。

廊下には、ただ一人、球磨川だけが取り残された。
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