-バクマツ-

□夢見心地
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tamaさんへ相互記念です。
苦情、持ち帰りは、tamaさん限定で。

だんだん春が近づいてきた。
屯所の庭にある桜の蕾も膨らんで、桜が咲くのを待ち遠しく感じさせる。
なぁーなぁーと泣く猫の声が遠くで聞こえる。
また、あの騒動のように屯所に猫がはいらなければいいけれど…。

久しぶりに屯所を走り回らないでゆっくりしている。
縫物など、いつもやっている仕事は昨日終わらせてしまったし、昨日屯所の大掃除を行ったばかりだから掃除できないし。
(なんか、隊士さんたちの努力を否定する行動になりそう)
洗濯物は、島原で遊びすぎた新八さんが説教ついでにやらされていた(土方さんに)。

屯所に来たばかりの頃は、何もさせてもらえなくてもどかしい思いをしたけれど、自由に出歩けるようになってからはできる仕事も、ものすごく増えた。
だからこそ、こんなにゆっくり過ごすのは久しぶりで…。
退屈しないようにと監禁されていたころ、永倉がくれた本を、自分の部屋の前の廊下で読んでいる。
時間帯的にも、場所的にもこの部屋の前を通る人は少ないからだ。

「おっ、千鶴じゃねぇか。」

「原田さん。」

隊服をはおったまま廊下を歩くのは、十番組組長、原田左之助だ。
赤毛で身長は高く、体つきもきりっと引き締まっている。
結構、どかどかと歩いているようにもみえるが足音はほとんど立っていない。
これも実戦で身に付け、長年この仕事に携わった上での癖だろう。

「巡察、お疲れ様です。様子はどうでしたか?」

「いつも通りだったぜ?特に変な奴にも合わなかったしな。それで、お前はこんなところでなにしてる?」

「仕事もなくって、やることもなくなってしまったので本を読んでいるんです。」

「こんなところで、か?」

「今日は、天気もいいですし部屋にこもっているともったいないような気がして…すみません、此処じゃ邪魔ですよね。」

「そーじゃねぇよ。お前が追い出されたんじゃないかと思ってさ。まぁ、此処はお前の部屋だからそんな事ないだろうとは思ったが。」

隊服をさっと脱ぎ捨てて千鶴の横に座る原田。
本に栞をはさんで、投げ出された隊服を引き寄せる。

「別にほっといていいんだぜ?」

「皺になってしまいます。でも、皺になったらどちらにせよ私が正すんですけど。」

「いつもご苦労さん。」

「いえいえ。」

さっとたたんだ隊服を原田に手渡すと、ぽんぽんと頭を優しく叩いてきた。
…いつまでたっても子供扱いなんだな。

「で、お前その本自分で買ったのか?巡察中、本屋に寄ってくれる奴は…斎藤か平助ぐらいか?」

「いえ、私が買ったわけじゃないんです。…持ち合わせもないですし。」

「あー、そうだったな…。」

千鶴の立場は、新選組のお客である。
土方の小姓ということにはなっているが、だからと言って給金が出るわけではない。
それに、もし給金を渡そうとされても千鶴は絶対に受け取らないだろう。

千鶴が、江戸から京都に来る時に持っていた物は初めて新選組の人に会ったとき全て捨てられてしまった。
冲田曰わく、「殺しちゃうと思ったから。」だそうだ。

「じゃぁ、誰の本だ?」

「永倉さんが、買ってきてくださったんです。」

「…変な話しじゃねぇよな。」

「永倉さんをどういう扱いしてるんですか…普通に、女性の方が好むような恋のお話が沢山載っているのです。」

「へぇ〜あの新八が…。」

女に対しては、疎いあいつが、妹分に対しては気がまわることが新しく学習出来た。

「にしても、あったかい風だな…」

「春が近々やってくるんだって自覚します。」

すると、空を見上げていた千鶴の膝に重みがかかった。
さっきまで隣で座っていただけだったのに、いつの間にか膝枕をするはめに。

「原田さん、お疲れでしたら部屋でゆっくり休んだ方が…。」

「部屋でゆっくり休むより、ここにいる方が疲れが取れるんだよ。」

「い…意味が分かりません。」

いくら千鶴が文句を言ってもゆすっても動く気配はない。
千鶴が、冷たい子ならさっと膝を動かして原田の頭を床に落としているだろうが、千鶴はそんな事ができるような子ではない。

「他の仕事はないんですね?」

「あぁ、巡察が終わったから後は暇してるだけだな。」

「…仕方ないです。あんまり長い時間、膝枕はできませんよ?」

足がしびれちゃいますから。
それだけ言うと、本に目を向ける千鶴。
膝枕を許可してくれたようだ。

ぽかぽか陽だまりのなか、ゆっくりと時間が流れる。
千鶴は、本に集中しているし原田は、目をつぶって規則正しい寝息を立てている。

規則正しい寝息が聞こえて来たので、自分の膝で寝ている原田を見る。
…何だか、とても気持ちよさそうに寝ている。
くすっと微笑んで頭を撫でると、

「俺は、ガキじゃねぇんだけどなぁ。」

「きゃっ!」

突然、原田が目を開けた。
完全に油断しきっていた千鶴は驚いて飛びずさってしまう。
すると、膝にあった原田の頭が床に落ちて…

ゴンッ!

「きゃあ!原田さん、大丈夫ですか?」

「ああ…ちょっと痛てぇけど。」

「すみません…。」

頭をさすりながら起き上った原田の横にもう一度座る。
頭に手を伸ばして、抑えてる手をどけると自分の手でこぶがないか確かめる。

「こぶになってないようですね…よかったです。」

「………。」

「原田さん?」

不意に顔をそむけてしまった原田。

はーらーだーさーんー?と、呼ぶ声が聞こえるが、今は顔を見せる事が出来ない。
なんせ、自分の顔は真っ赤。
無意識にされていることとはいえ、此処まで接近されたのだからねぇ…。

「あー…んー…。」

「原田さん?あの…他にいたい所でも。」

「いやっそうじゃねぇ…んーそうだな。もう一回、膝枕してくれ。」

「まぁ…いいですけど。」

ちょこんと正座をする千鶴の膝に頭を乗せる。

「あー、落ち着く。」

「はぁ…まぁ、いいんですけど。」

千鶴はいまいち納得していないようだが、追及してこないのが千鶴のいい所。
嫌な人には絶対に寄りつこうとしないが、信頼しているものには笑顔をみせたり、無意識のうちに警戒を解いている。
信頼している一人になれたのは、本当にうれしい事だ。
でも、それ以上を望んでしまうのも確かで…

「夫婦って、こういう事日常茶飯事にやってるんかな。」

「どうでしょう…忙しかったりすれば、そういうわけにはいかないでしょうし。」

…純粋すぎるのも考えものである。
今のは、照れる所だと思う。
真剣に考えている千鶴を横目に、溜息を一つ。

「あっ…すみません。私の膝、痛かったですか?」

「いんや、すんげー心地いい。」

「よかったです。」

…そこも照れるところだろうに。
純粋を通り越して鈍感な彼女には、口説き文句も通用しない。

「まぁ、今はこのままでいいか。」

「何がですか?」

「なんででも。」

今、この時間を二人だけで過ごせるなら…。



END

リクエスト作品…どうでしょう!
ほのぼのした2人を書きたかったんです。春も近いですしね!


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