-レンサイ-

□不安
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正直言って、本当は転校したくなかった。

たとえ大好きな父の事だとしても今の友達と離れるのは嫌だった。

確かに、昔居た地に戻るとしてもそれは幼いころの話であってその時代仲が良かった仲間がまだその地にいる保証はない。

人見知りをするタイプではないのだが、高校生で新しい友達を作るというのは大変だと思う。

父は、此処に残ってもいいと言ってくれた。

しかし、心配性の兄はどうしても千鶴を置いていきたくないという。

千鶴も兄の気持ちが分かるからなおさら迷っていた。

すると、友達が




「千鶴、悩むぐらいなら行った方がいいよ!」

「えっ…でも。」

「あっ、千鶴が嫌いになったとかそういうんじゃないからね!こんだけ優しい子なんて早々居ないんだから。」

「そうそう、でね。千鶴は、もしかしたら新しい友達ができるかどうか不安なのかもしれないけど…千鶴は、その心配はいらないと思うよ?」

「なんで?」

「…これだから天然は困るのよ。」

「私、天然じゃないもん。」

「じゃー鈍感。」

「…酷くなってない?」

「あー話脱線してるよ、奈央。話戻して。」

「逸れたのは私のせいじゃないしー。」

「ええっと…本題に戻ろうか。何で心配いらないの?」

「んー、上手く説明できないんだけどね、千鶴には、仲間を引きつける力があるんだと思うの。」

「良くも悪くも…だけど。」

「はいはい、円は黙ろうか。優しい友達とかいっぱいできると思うよ!それに、薫がいるじゃない。」

「何かあったら、あのシスコンがなんとかしてくれるはずだよ。」

「薫はシスコンじゃないよ…。」

「双子って恐ろしいんだね。」

『全く同感』

「…真剣な話してるんじゃなかったっけ?」



全くこの子たちは…それでも大事なお友達。




「そうねぇ…毎日は無理だけど、毎週曜日を決めてメールするってどう?」

「いいねぇそれ!ほら、これで私たちの友達関係も保障されたし、安心していって来なさい。」

「…ありがとう、みんな…。」



優しい友達に後押しされて、千鶴はこの町を出る事に決めた。

幼いころの思い出といえば、隣りの家に住んでいた「平助」とよく遊んだことが印象に残っている。

おぼろげに頭に残っている町の風景は、現実とは思いっきり違って。

新しい街に来ていると何も変わらなかった。



「…千鶴、大丈夫か?」

「薫…うん、大丈夫だと思う。でも、学校がちょっとこわいかも。」

「いじめられたり、嫌な事があったらすぐ言うんだよ。蹴散らしてやる。」

「ありがとう…でも、蹴散らすのはやめてね。」

「優しいなぁ…相変わらず。」



友達に後押しされた。

薫にも、後押しされた。

父も、後押ししてくれた。

それでも不安だったのだ。

自分が生活する空間があるのだろうか。

居場所があるのだろうか。

不安で不安で…

そんなとき、平助に再会したのだ。


兄以外、知り合いがいなかった私に救世主のように射しこんだ光。

同じクラスで良かった…。

それに、平助のおかげでまた新しい友達も増えた。

斎藤さんと沖田さん…。

部活にもつれてってくれて部活に入らないかと言われて。

私が役に立てる場所を見つけて…。

自分の居場所が見つかったみたいで、本当にうれしかった。

…この人たちになら、自分の秘密を話せると思った。






「…あの…私なりのプラス志向な考え方です…だから、あんまり訊かないほうが。」

「いや…お前の気持ち、よく理解できた。」

「居場所かぁ〜、俺そんなの考えたことなかったな。」

「男は、単独で行動するものだが女は、群れて行動しないと駄目だと…小学生のころ聞いた事がある。」

「…あんまり確証の得られるものじゃねぇな
。」

「で?自分の秘密ってのは?」

「あっ…えっと……。」



千鶴が表情を曇らせた。

まだ、話せる時期じゃないということか。



「お前が話したくなった時でいい。」

「土方先生…いえ、今話します。また、私の事で皆さんの時間を削りたくないので。」

「相変わらず千鶴は、人このと最優先なのな。」

「雪村のいい所だ、平助と総司も見習え。」

「平助は、ともかく何で僕まで…。」

「お前ら少し黙ってろ、千鶴が話せねぇじゃねぇか。」

「…ほら、話してみろ。」



千鶴が、前の友達にも言えなかった事。

それは、自分の体質の事だ。



「体質?」

「皆さんは、鬼と戦ったことがあるんですよね?そのときに基本、何を使って戦っていましたか?」

「基本は、竹刀とかだよなぁ…」

「刀とかは?」

「千鶴、銃刀法違反って知ってるか?」

「あ…律儀に守ってるんですね、そういうの。」

「法律を守るのは、生活するうえで必要なものだ。」

「えっと…あの、カッターとかありませんか?」

「俺持ってるぜ、ほい。」



新八がポケットからカッターを取り出す。



「なんでんなもん持ち歩いてるんだよ…。」

「いや、授業で使ったまま入れっぱなしだったんだよ…そんな怖ぇ顔すんなよ、土方さん!」

「土方さんはいつもあんな顔だよ。」

「総司…。」

「えーっといいですか?」

「ああ、悪い。で、カッター使って何するんだ。」

「見ててください。」


と、千鶴は腕まくりをしてカッターの刃を白い肌に当てる。



「おい千鶴、何して!」


プッ…


千鶴は、自分の腕をカッターで切った。

…しかし。



「直って…?」

「これが私の体質です…多分、鬼の体質なんじゃないでしょうか。」

「…これは…。」

「恐ろしいでしょう?人とは違うんです。私も結構前にこれが普通じゃない事に気づいて…だから、刃物が自然に嫌いになったんです。」

「…自分が、怖がられるからか?」

「そうです…化け物ですね、これじゃぁ。」



いつもの明るい顔は何処へやら。

血だけが残った腕をただ見つめている。



「…それでもお前はお前だ。」

「土方さん?」

「たとえお前が鬼だろうと、何だろうとお前はお前だ、千鶴。」

「そうそう、風間がそんな体質だとすると厄介だけど千鶴ちゃんなら全然許せるよね。」

「…化け物って言わないんですか?」

「何処が化け物なんだ?別に身なりが変わったわけじゃねぇじゃねぇか。」

「昔、俺と遊んでたときだって普通に遊んでたじゃん?人となにも変わんないと思うけどなぁ。」



皆、口々に言い募る。

その口調は、とても穏やかで…優しい。



「なぁ、千鶴ちゃんよ。お前さんは、此処を出ていきたいか?」

「えっ。」

「新八っつぁん?」



千鶴の肩に優しく手を添える新八。



「千鶴ちゃんの体質を知った俺達の反応を見て、此処を出ていきたいと思ったか?」

「…思いません。絶対に。」

「じゃぁ、問題ねぇな。」

「はい?」

「よしお前ら、竹刀持てぇ!もういっぺん練習するぞ!」

「土方さん、久しぶりに相手してくれねぇか。」

「原田か、確かに最近やってねぇな。容赦しねぇぞ。」

「あの…私は。」



突然、部活の練習を再開してしまった剣道部員達。

すると、山崎がそっと耳打ちしてくれた。



「ようするに、私たちは貴方の味方という事です。」

「あ…ありがとうございます。」




優しい剣道部員に支えられて私は居場所を見つけた。



つづく

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