頂き物

□イゾンシマショウ
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たまたま聞いてしまった、隣のクラスの女子の会話

もう恋をしたくないと呟いた彼女は、悲しい笑顔で友人に話していた

それと同時に、オレの銅のような心臓は重く重く鼓動する

彼女の友人は彼女の手を握り、何か囁いていた




そう、その何かは、オレに聞かされることは一生ないとわかっている言葉



オレは、自覚症状のないまま、蝕まれていく身体を気に掛けることもなく、ただこのひなたという眩しすぎる麻薬に沈んだ





"イゾンシマショウ"







心とは、あるべきものでありながら無益なるものだ

人生の中で、心があることが有益なものになるとしたらほんの十のマイナス何乗かの確率のような気がする

数学の数字を見つめ、人生のすべてが理不尽なものと悟る

ただ本能だけで動けたらどんなに楽か

理性が邪魔だ

心なんていらない

ただ無情な痛みだけ残るような感情なら、オレは始めから持ちたくなんかなかった


世界の何億人の中から君を見つけた

オレにとっては奇跡で、それは痛くて重くて、痺れるくらい心を締め付ける


何もしないわけじゃない

足掻いたときだってあった

抗ったときだってあった

でも君の心は相変わらず、オレには見えない

恋をして、思い続けて3年





疲れた、もう立てない
高校最後の冬だった






















「……日向…」

オレは大学に行かなかった

いや、行けなかった

進路なんて見えなくなったんだ

君の偽装の姿ばかり、濁った世界の中で見える

愚かなことだ

ただガラスに映った君を見つづけた半年の受験対策の授業はオレにとっては薬物摂取期間

自分ための人生なのに、日向という麻薬で自分を駄目にしてしまった

手の感覚がわからない

なにもかもが受け入れられない世界



「…ひゅぅ…が…」



身体がふわふわと浮遊したように自由が利かなくなった

もう、君に会いに行くのもままならないのか

「…日向……ひゅぅ…――」

小さく部屋に響く電子音


「…ぁ…ひゅぅ…が…」


―――あぁ

この手を握れたなら、もう消えてもいい

一緒に、行こう











「………ぃ…づき…」

オレは、一週間後にその知らせを聞いた

何もかもわからなくなって、いや、わかりたくなくて、ただ四肢全てがコンクリートに埋まったような感覚




『暗い部屋の中で、ひっそりと日向君のメールを開いたまま、その携帯を握りしめて眠っていた』




母を通して聞いた、最後のお前


―――あぁ
やっぱり堕ちたんだな
オレを残して





オレはゆっくり目を閉じた


弔いなんかするもんか

憎いなら殺しに来い
愛しいなら導けばいい
怖いならオレが逝くまで
オトナシク待ってろ




ナニモイゾンシテタノハ
オマエダケジャナイ



BadEnd
 

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