捧げ物

□好き×好き=大好き
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日向は猫が好きらしい。

あと、自分で言うのもなんだけど、俺のことも。


…自分で言うとホント恥ずかしいんだけど。




なんで俺が行きなりこんなことを思ったかと言うと、俺は今ピンチな状況にいるからです。



『さあ伊月君!これを着るのよ!』



数分前のカントクの台詞が頭に浮かぶ。

うきうきとした声が俺の耳に届くと同時に渡されたモノ。


それが俺をピンチにと陥った原因。犯人。張本人。



「…ホント着なきゃダメかな」


現在俺の目の前にあるもの。


メイド服(猫耳カチューシャ付き)



これを着ろと言われて、はい着ます何て言えるわけがない。

だいたい男がメイド服を着るなんて、恥ずかしすぎる。


何でメイド服を渡されたのかと、カントクに理由を聞いたら、文化祭だからよ! と自信満々に返された。



なんかバスケ部は喫茶店をやるらしい。

それで、男ばっかりじゃ花がないと言う理由もあり、カントクがウェイトレスをやることになった。


だけど一人は嫌とかそんな理由で、俺もやることに。



……メイド服着なくても良くない?

…普通の服じゃダメなの?



そんなのは何度思ったかわからない。


カントクが言うには「それじゃつまらない」らしい。



面白さを求めるなら、俺じゃなくて日向にしてほしい。

日向が猫耳メイドだよ?


絶対面白いじゃんか!(少なくとも俺が着るよりは!)







そんな俺の抵抗は意味なく、今にいたる。



「…どうしよう」



目の前にはメイド服。

とりあえずサイズ合わせはしとかないとヤバイらしいし…。


でも正直着たくない。

着たら男として終わる気がする。

だけど着ないとカントクが恐い。



「………よし!」



決めた!

俺も男だし、と覚悟を決めてメイド服を手に取った。




























「うお…お……」



数分後。

俺は男を捨てた。


純白のフリルが着いた短めのスカートに丈の長いソックス。

全体的に黒基調で上品さを漂わせる。


頭には黒い猫耳。



今の俺を一言で表すなら黒猫の様な感じだろう。




「…………」




今の自分の姿を鏡で見る。

コメントは出来ない。



似合ってるのかすら分からない。似合ってたら困るけどさ。
似合ってなかったらそれはそれで困るけど、似合ってたら男としてダメだと思う。



「…はぁ」



深いため息をつく。



「伊月君!着た!?」


「うわっ、カントク!?」



ため息をついた瞬間、バンッと勢いよくカントクにドアを開けられた。

ちょ!
着替え中だったらどうするんだよカントク!



カントクに心の中でつっこむ。

ふと、カントクを見ると物凄く目を見開いていた。




「…ここまでとは予想外だったわ」




小さく呟く。


え、どーいうこと?

似合ってなさすぎて気持ち悪すぎるって事だとしたら、酷いと思う。


俺頑張って着たのに、気持ち悪いとか言われたら、ホント立場ないんだけど。




「…ちょっとムカつくわね」




ムカつくとまで言われたんですけど。

似合ってなさすぎてムカつくんですかカントク。


何で俺は敬語を使ってるんだろうと思ったけど、それ以上に今の俺の格好に不安を覚えた。




だって俺男だし。

こんな服着たことないし。

自分で見たって似合ってるかなんて分からない。でもカントクが引いてるってことは似合ってはいないんだろう。




「上出来よ、伊月君!」




俺の精神がちょっと危うくなっていると、カントクが声を張っていった。




「え?」




カントクが満面の笑みを浮かべていた。

その理由が分からない俺は、疑問を浮かべることしかできない。




「これならお客さんがっぽり間違い無しだわ!」




「…えー……?」




どうしよう。
さらに意味が分からなくなった。誰か説明してほしい。




「伊月君、似合ってるわ!」


「まってカントク、嬉しくないよそれ」


「ホントの女の子見たいよ」




どうやら褒められてたようだ。
いや、ちょっとまて。
俺は男。メイド服が似合ってるって言われても嬉しくないし、褒め言葉でも無いと思う。


俺が呆然としてるとカントクが言葉を続ける。




「日向君に見せてきましょ」




その言葉は俺が今一番聞きたくない言葉だった。
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