サブウェイマスター 2

□さよなら、愛しのSweetheart 第4話
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「なぎさ、うちに来る前の
 あなたはどんな方だったのですか?」


電車に乗り込んで、
上手く座席に座れた私達。

腰が落ち着いた頃に、ノボリ様は
私にそう聞いた。


「母親にべったりでした。
 本当に大好きで、母の手が大好きでした」

「手、ですか?」

「はい。
 あったかくて、私を護ってくれるような手で、
 ずっと握っていたのに」


手放してしまった。

手放されてしまった。

あのぬくもりは今はもうない。

今の私の手は冷たくて、
黙々と作業をこなすためだけの手になってる。


「…そんなことないですよ、なぎさ」

「え?」

「今、私はあなたの手を握ってます」

「あ…」


そうだ。
今、温かいのはノボリ様が繋いでくれているからだ。


「私はあなたの手が好きですよ。
 すごく繊細な動きをなさります」

「…え」

「どんな作業の時も繊細な動きで、
 何かに触れるときは、すごく優しく…」

「の、ノボリ様…!」


これ以上はさすがに恥ずかしい…!!
そう思った私は、思わずノボリ様の口を塞いだ。


「んむ!?」

「は、恥ずかしいのでそれ以上は…!!」


ノボリ様は少し驚いた顔をして、
その後すぐに、優しく微笑んだ。

【わかりました】っていうみたいに。



電車に揺られる事、一時間弱。

私達は庭園のある駅に着いた。




「おや」

「…あー……」



駅の看板に、
その庭園について張り紙がされていた。



「今日、お休みみたいですね」

「…そうですね」



駅に張り出されるということは、
人気のある大きな庭園らしい。


「…どうしましょうか」

「えっと…」

「あ」

「え?」


ノボリ様は改札口をくぐって、
外に出て行った。


「ま、待ってください、ノボリ様…!」


ここの駅は人が多い。
迷子になってしまえば、私は確実にひとりぼっちだ。

それだけは免れたい。


「ノボリ様…!」

「すみません、なぎさ。
 これを見つけてしまったので…」

「これって…?」


すっと差し出されたのは、
桃色のコスモスの花。


「え?」

「優しい色でしょう?
 そこのお店で買ったんです。
 なぎさにきっと似合うと思いまして」


ノボリ様はすぐ傍の花屋さんを指した。


「…あ、ありがとうございます」


ノボリ様は私の手をコスモスを持たせると、
優しく微笑んで、反対の手を握った。


「今日はこのあたりを歩きましょう」

「あ、はい」

「疲れたら、言ってくださいね」

「はい」


ノボリ様はきっと庭園にいけなかったお詫びに、
買ってくださったんだと思う。

私を想って。

コスモスが似合うのはあなたですよ。
ノボリ様。


左手に桃色のコスモス。
右手にノボリ様の手。

両手がこんなに温かいのは、
すごく久しぶりだ。

そう思いながら、ノボリ様と一日を過ごしたのでした。





END



ほんのりと優しい気持ちが
欲しいなって思いまして。


次はまたシリアスに落ちます。


更新遅くなってすみませんでした。
頑張ります。
もっと頑張ります。

では、
読んでくださった方、
ありがとうございました!
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