ドラマチック・シティ

□【メリー&ダーク】オリジンズ
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 ジェーン・グレーズは幸せだった。
子宝にこそ恵まれなかったが、超人や犯罪者が跋扈するメガロポリスDCでは平凡な幸せこそに価値がある。つまりは、そんなことは些細な問題だった。
ドゥーヴィルの役所に勤める夫(お節介な叔母さんの紹介だ)、アンドレは真面目を絵に描いたような人で、浮気、ギャンブル、お酒のいずれにも興味を示さなかったし、ジェーンは引っ込み思案なところはあったが、旦那の一歩後ろをそっと歩く貞淑な妻として、家事に精を出しながら、主婦仲間と優雅にお茶を楽しみ、オペラを鑑賞し、お稽古に通った。
そう、ジェーンは幸せだったのだ。

終わりはいつも突然やってくる。
あの日、警察からの突然の電話は悪質な悪戯と思ったが、現実はすぐに押し寄せてきた。

今、ジェーンの目の前には“生前”の普段の表情と何ら変わらず、口を真一文字に結んだままの夫の横顔がある。


「貴方の夫は帰宅途中、足を滑らせ、川にその身を投げ出されました」
「お酒を飲んだようですね」
「我が署は事故死と判断いたしました」
「この度は……」

ドラマのように低音で厳かに読み上げるかのように二人組の刑事が説明するのをジェーンはゼンマイ仕掛けの人形のようにカクカク頷いていた。

それからのことはあまりよく覚えていない。

葬式はあっという間に終わった。

覚えているのは叔母さんの激励(内容は忘れたが)と、葬儀場を後にする時、サイドミラーに映った葬儀屋の恭しいお辞儀だけだ。
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