ミ☆゚*:Novel:*゚☆彡

□泡沫LoVERs〜はじまり〜
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 どれくらいそうしていたのか、気がつけばあたりは大分薄暗くなり、夜の訪れを告げていた。
 はっ、と我に返った神田は踵を返して駅へ向かう道へと足を向けるが、このまま帰る気にもなれず、駅前の雑踏の中へと消えて行った。

 あてもなくふらふらと歩いていた神田だったが、余程ぼんやりとしていたのか、気付けば見覚えのない路地へと入り込んでしまっていた。
 急いで戻ろうと踵を返してみるも、振り返った先もまったく知らぬ光景が広がっているだけだった。

「…チッ、」

 思わず悪態の代わりに得意の舌打ちをしてみるも、状況が好転するはずもなく、神田は仕方なくもう一度前を向くと、なるようになる、というつもりでそのまま歩を進めることにした。
 しかし、進めば進むだけ入り組んだ場所へと入り込むこととなり、神田は次第に不安になってきたが、今更引き返そうにも来た道がわからないとあっては、どうしようもなかった。
 この歳にもなって迷子など、そんな有り得ない状況だけは、なんとしてでも回避しなくてはならないと自分に言い聞かせながら進んでいると、ふいに目の前に広がった光景に、神田は息を呑んだ。

「…!これは…」

 石造りの、ところどころが風雨によって削られたように欠け、刔れている階段を上ると、そこには都会ということを忘れそうになるほどの、時代の波に乗り損ねた静謐さを漂わせた光景が広がっていた。
 高層ビル群を背景にひっそりと佇むそこは、眼下の疎らな灯りのほかは何もなく、不気味なほどに静かだった。そして、何とは無しに上げた視線の先には、これもまた、都会であることを失念させるような美しい星空が広がっていた。
 思わず魅入ってしまった神田は、背後から近付く人の気配に気付けなかった。


「綺麗でしょ」
「!?…ぁ、」

 唐突に聞こえた声に驚き振り向くと、そこにはよく見知った顔があり、神田だけではなく相手の方でも驚いたようで瞳を大きく瞠くと、いつもの笑顔を見せた。

「ユウ!」

 聞き慣れた声で聞き慣れた呼び方をされ、神田は張り詰めていたものがゆっくりと剥がれ落ちるのを感じた。
 安堵感の滲んだ声音は随分と甘く響き、澄んだ空気に熔けて行った。

「……ラビ…」
「ビックリしたさ〜!こんなとこで、まさかユウに逢えるなんて!」

 それはお互い様だと肩を竦めて見せると、悪戯っぽい笑みを浮かべたラビはゆっくりと神田の横まで歩み寄り、幾千、幾億もの星たちが煌き瞬く空を見上げた。

「オレもさ、最近知ったんさ。都会でもこんなに綺麗で、澄んだ場所があるって。…いつか、ユウにも見せたいなっ、て思ってたんさ」
「…」
「どう?気に入ったさ?」

 そう言うと、ラビはふいに神田の方へと視線を向け、見たこともないほどの柔らかな笑みを浮かべて見せた。
 咄嗟にどう答えていいかわからぬ神田は、再び空を見上げた。

「…あぁ、綺麗だな。…ここが何処だか…解らなくなるほどに」
「…」
「オレは今まで、こんな風に空を見上げることもなかった。目の前のことに必死になりすぎてて、そんな余裕が、きっとなかったんだろう」
「……」

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