ミ☆゚*:Novel:*゚☆彡

□泡沫LoVERs〜はじまり〜
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 身を刺すような冷たい空気も、次第に春めいてきたと感じる頃。いつもの通り慣れた道端に、季節の移り変わりを告げる草花を見つけ、知らず頬が緩むのを感じ、神田は急いで常の仏頂面を作り直す。
 見上げれば、鮮やかなコバルトブルーにほんの一滴白を落としたような空が広がり、暖かな陽射しを降り注ぐ太陽が惜し気もなくその姿を誇示していた。
 高校三年のこの時期、既に進路を決めた彼ら同様、あとは結果を待つだけという状態の神田は、気抜けし、どこか浮足立ったような周囲を余所に、普段通りの生活を送っていた。
 そんな、静かで穏やかな日常を過ごせるだろうと思っていた神田とは裏腹に、おせっかいな幼馴染みである彼女は、何かと神田の世話を焼きたがる。
 そして今日もそんな彼女の計らいで、今話題のデートスポットへと繰り出す羽目になったのだ。

「はぁ…」

 目的の場所へ着く前から、何だか憂鬱な気分になってきた神田は、小さく溜息を洩らした。

 有り難いとは思っている。両親を早くに亡くし、親戚の家をたらい回しにされていた頃の心細さや不安を考えると、どんなに離れた場所へ行かされても彼女は必ず手紙をくれたし、兄を保護者代わりに自分を訪ねてくれるなどして、心から自分を案じてくれていることが幼いながらも解っていたので、本当に感謝している。
 もしもあの頃、何の支えもなく荒波に揉まれるように転々とさせられていたなら、自分はきっと立っていられなかっただろうと思う。
 それを思えば、彼女の存在は本当に大きなものだった。
 しかし彼女の悪い癖で、やたらと神田の世話をしたがるのが裏目に出ているのかどうなのか、神田の色恋沙汰にすら首を突っ込みたがるのだ。
 お陰で付き合う相手にはあらぬ誤解を与え、それを理由に別れを切り出されたことが何度かある。けれどそれは、何も彼女だけのせいではないのだろうが。
 幼い頃の経験や環境がそうさせたのか、神田には些か情というものが欠けているように思われた。否、情が欠けているというよりは、愛し愛されることに不慣れなのだ。故に恋人という特別な関係になっても、相手に対し自分がどういったスタンスで接すればいいのかが、いまいちわからないのだ。
 そんな神田を周囲は冷たい人間だと非難することもあるが、そればかりは神田一人の責任でもない。
 そういった事情も心得ている彼女は、何かと恋愛に関する手解きもしてくれるのだが、今回ばかりはその気遣いも複雑な感じだ。何せ現在神田の恋人というスタンスに在るのは、己と性を同とする者なのだから。
 極力バレないようにと細心の注意をはらって隠していたつもりが、どういう訳か大して時間もかからずに彼女に知れた。
 もっとも、驚異的な情報力と千里眼かと思われるほどの観察力に優れた彼女ならば、同じ高校に通う自分たちの関係の変化を知るのなど、造作もないことだったのかもしれない。





 あれは今からちょうど、一年前―――。

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