ミ☆゚*:Novel:*゚☆彡

□泡沫LoVERs〜はじまり〜
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進級を間近に控え、同時にこの学校を去って行く者たちの卒業式の予行演習やら準備やらで忙しいこの時期、現在恋人という関係にある相手に、放課後学校裏の公園へ来て欲しいと、人伝に言われた。
 些か面倒だと思った。けれどわざわざ人目につかぬところへ呼び出して告げられるであろう言葉は、この頃になると嫌でもわかってしまう。
 そんな回りくどいことをせずとも、自分に用件を伝えてきた恋人の友人を追い掛けて、自分が言われるであろう言葉を告げてやろうかとも思ったが、それくらいはせめて彼女の口から言わせてやろうと、憂鬱ではあるが指定された場所へ行くことにした。
 そんなことを考えながら歩いていると、廊下の向こう側から自分を呼ぶ声がして、見ずとも知れる相手の気配に自分でも驚くほどに肩が揺れた。

「ユーウー!」

 視線を僅かに上げれば、隻眼を細め並びの綺麗な白い歯を見せ、満面の笑みで両手を大きく振る小さな姿が見えた。隻眼だということを失念させるほど、彼はいつも遠くからでも自分を見付けるのだ。

「ユウー!今帰りさ?一緒に帰ろー

 駆け寄ってきた彼、ラビにそう言われ一瞬頷きかけるが、用があるのを思い出し、とどまった。

「…悪い、ちよっと用事があって……」
「?そうなんさ?んじゃ、早く済ませてきちゃいなよ!待ってっからさ☆」
「……いや…」

 そう言って進行方向を空けて促すラビをちらりと横目で見やり、神田は小さな声で呟いた。
 そんな神田の態度に疑問符を浮かべたラビが、時間がかかりそうなのかと聞いてくるため、別に言うつもりもなかったことを言わざるを得なくなった神田は、苦い声で言った。

「…、ちょっと…な、呼び出されてて。その……女に」
「女?…あぁ!また告白ー?ユウってば、罪な奴さね〜。彼女に怒られちゃうよん」

 まるで検討違いなことを言ってくるラビを強かに睨みつけ、その彼女に呼び出されているのだと言ってやった。
 すると今度は、いいなー!デートかぁ…などと囃し立ててくるので、いちいち訂正するのも面倒になり、そのままにしておいた。それを肯定ととったのか、そういうことなら今日は一人で帰るさ、と言って校門で別れた。
 それを何だか寂しいなどと何処かで感じる自分を、神田は慌てて否定した。



 学校と閑静な住宅街とを隔てるように造られた大きめの公園は、等間隔に植えられた木々と、整備された芝が生い茂り、休日ともなれば平日以上に子供だけではなく犬連れの大人や老人たちも、散歩がてらの日光浴を楽しむ場所だった。
 そんな大きな公園の中で指定された場所は、公園のシンボル的存在感を放つ噴水だった。
 夕方ともなると流石に人の姿も疎らで、少し離れた位置に設置してあるベンチに座った初老の男が、群がる鳩にパン屑を与えているくらいだ。
 噴水の在る場所は、そこだけ円形にくり抜かれたように半径百メートルほどを石畳が埋め尽くし、周りをぐるりと囲むように桜の木が植えられていた。
 あと半月ほども経てば、この場所は恰好の花見スポットとなり、夜にはライトアップされた桜を一目見ようと、沢山の人やカップルで賑わうのだ。

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