紅の花舞
□三十、桜雨、涙と共に
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広間にさざめきが満ちている。
「総司くんは休んでいるようだったから、呼ばなかったよ。…それで構わないかい?」
「はい、問題ありません。…それより、事は急を要します。」
「…何があったの?…まさか、伊東さんの暗殺に失敗したの?」
山崎くんにしては珍しい焦りの色に、どこか不安になる。
「いや…それ自体は成功した。
我々は伊東の死体を囮に、御陵衛士を油小路におびき寄せ包囲しました」
淡々と語られる伊東の死。
だが、感傷に浸っている暇はないことを山崎くんの表情が物語っている。
「ですがその際、永倉さん達と御陵衛士双方を包囲する形で、横槍が入りました。…薩摩の連中です」
「薩摩の!?」
「そんな…!永倉さんや原田さん…、それに平助くんは無事なんですか!?」
「敵の数はこちらを大きく上回っていたが、恐らくあの人達ならば、しばらくは持ち堪えてくれるはずだ…」
「…早急に援軍を送らなければならないね。動ける者は、私と島田くんと――」