紅の花舞 弐

□四十九、残花
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刑場とこちら側とを隔てている柵を掴み声を張り上げた私に周囲の視線が集まる。だがそんなことはどうでもよかった。今の私にはあの人しか見えていなかった。


「近藤さん、助けにきました!今行きますから…!」

私の声を聞いた新政府軍の者達が一斉に動揺と敵意を露わにする。刀や銃を取り出した者もいた。そんな中で、ただ一人近藤さんだけは静かに、少しだけ驚いたような顔をしていた。


「いけません!もう近藤局長は刑場に出てしまった。いくらあなたでも敵が多すぎます!」

いつの間にか来た天霧さんに後ろから押さえつけられてうまく身動きがとれない。今すぐに近藤さんのところへ行かないといけないのに。

「離して!私はどうなってもいいから!近藤さん!近藤さん!」
「やめないか奏樹!」

鋭い一喝。それは騒がしい刑場を一瞬で鎮めるほどの威力があった。はっと我に返ると、近藤さんはとても穏やかな表情を浮かべていた。

まるで、もう十分だ、とでも言うかのような。

「皆さん、安心して頂きたい。私は逃げも隠れもしません」

そう言い放つと、近藤さんはその場に膝を突いて静かに目を閉じた。

「…あとは私が何とかします。今の内にあなたは行ってください」
「天霧さん!?」

新政府軍の目が反れた一瞬の隙に、天霧さんが私を担いで馬に乗せる。抵抗する間もなく馬は走り出してしまった。




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