紅の花舞
□十八、花簪に揺れて
1ページ/6ページ
西本願寺に屯所が移転してはや三ヶ月。
新しい屯所にもだいぶ慣れてきて、巡察への道も迷わなくなった。
「今日も賑やかだね、総兄」
巡察しながら京の町を眺める。
「そうだね…って、あれ?」
総兄の視線が一点で止まる。
見ると、通りの向こうから平助が手を振っていた。
隣には八番組の巡察に同行していた千鶴もいる。
「お、総司、奏樹ー!
そっちはどうだった?」
「別に何も。普段通りだね」
総兄がくすりと微笑んだ。
「でも、将軍上洛の時には忙しくなるんじゃないかな」
「そうだね。近藤さんも張り切ってるし」
将軍が訪れれば、京の警備をする新選組は、自然と目に留まることになるだろう。
近藤さんが張り切る姿を思い出して、私は頬を緩ませた。
「あー、うん、近藤さんはそうだろうな…」
平助が気の無い相づちを打ったきり沈黙する。
どうしたのかな、いつもの平助らしくない。
私が首を傾げていると、
「……けほっ…こほ」
「総兄、大丈夫?」
彼は苦しげに顔をしかめ、小さな咳を繰り返していた。
総兄はこちらに目を向けたけれど、視線はそのまま私を飛び越す。
不意にその眼光が鋭くなった。