紅の花舞
□三十一、触れる手と熱い鼓動
1ページ/8ページ
夜。
総兄が一人、空を見上げていた。
一瞬その背中に声をかけるのをためらいそうになるけど、私は一歩を踏み出した。
「総ー兄っ」
「…ああ、奏樹ちゃん。今日はずいぶん夜更かしなんだね?」
「えへへ、総兄が起きるの待ってたんだ」
私は手にしたお盆を彼に見せる。
「はい、桜屋のお団子!今日、非番だったから買ってきたの」
私がお皿を差し出すと、総兄は目を丸くした。
「まさか、これを僕に渡すためにこんな時間まで起きてたの?」
総兄の問いかけに、私は微笑むだけで答えなかった。
羅刹となった彼が心配だったことももちろんある。
…だけど一番の理由は、私が総兄のそばにいたかったから。
「…まったく、君って子は」
総兄はそう言って、優しく微笑んだ。