〜この手に太陽を〜 第弐部
□回想拾
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終戦からおよそ三週間が過ぎた、三月中旬。
一人の少女が仲間達に会うため、陣営としていた武家屋敷跡に戻ってきた。
しかし、眼前の景色に思わず絶句する。
そこには彼らが居ないどころか、焼け焦げ瓦礫と化した建物の残骸が広がっていたのだ。
『‥‥‥‥、』
彼らが死んだとは信じていない。
攘夷側が敗北した今、ここに留まっている可能性が極めて低い事も解っていた。
しかしながらそうだとしても、己が過ごした場所がこんな有様になっているのを目にすると、つい最悪の事態を想像してしまう。
『──…っ、』
少女は瓦礫の山に踏み込んだ。
頼むから誰も死んでいないでくれと願いながら。
………暫く辺りを調べたが、それらしきものは見付からなかった。
勿論それだけでは証拠にはならないのだが、取り敢えずホッと息を吐く。
と、その時、背後の瓦礫が大きな音を立てて崩れ落ちた。
驚いて振り向いた少女の金色の眼に、とある物が映る。
『あ…!』
薄汚れてはいるものの、赤橙の柄に白い鞘のそれは、紛れ無く少女が父から譲り受けた小太刀だった。
『良かった…
失くすなって言われてたし、一応お父さん達の形見だしね…』
少女は手拭いで汚れを拭き取りそれを風呂敷に包んで肩に掛け、長居は無用とその場を後にする。
向かう先は、自身の祖父母が待つ家だ。
『ほとんど二年振りか…
絶対二人とも心配してるわよね…
早く帰ってあげなきゃ!
‥‥‥‥‥、』
ふと歩みを止め、来た道を振り返る。
『銀兄…小太兄…晋兄。
あたし、みんなが生きてるって、ちゃんと信じてる。
それから辰兄も、元気でいてね。
絶対に、会いに行くから』
少女の灰髪が、びゅうと吹いた春一番に靡いた。
〜回想拾・終〜
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