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□伝わる想い
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「ラ、ランプキン……ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
寒いある日のこと、グリルは緊張した面持ちでランプキンにそう聞いた。
その頬は少しだけ紅潮していて、視線もどこか泳いでいる。
「私でよければどうぞ、どうしました?」
「あ、あのね……チョコレートのお菓子の作り方、教えてもらってもいいかな?」
そう言われた彼はほんの少しだけ目を見張った。
しかしすぐにその理由に思い至り、微笑を浮かべる。
もう少しでバレンタインデーだ。
彼女(ついでに彼)の故郷ではその日は恋人同士が贈り物をし合う日。
しかしある地域――例えばポップスターには違う風習がある。
恋人同士でなくとも、例えば友達同士で贈りあったり、想い人に気持ちを込めたチョコレートをプレゼントしたりするらしい。
「なるほど、ポップスター方式ですね」
「うん、アイツ普段はポップスターにいるから……って、あっ!
そ、その……っ、なんでもないの!
気にしないでっ!」
グリルの顔が恥じらいに真っ赤に染まる。
でも誰に渡そうと思ってるかなんて最初から明らかで。
むしろバレていないとでも思っていたのか、そちらの方がランプキンにしてみれば疑問である。
「もちろん喜んでお受けしましょう。
でも私でいいのですか?」
「ママに聞こうと思ったけど……誰に渡すのかうるさそうだし、友達はボクちんがそういうキャラじゃないって思ってるし……ドロシアはほら、ちょっと個性的なお料理だから」
彼女の地元でこの時期に「チョコのお菓子の作り方教えてくれ」なんて言えば、彼女にチョコレート好きの恋人がいると思われるだろう。
説明すれば尚更興味を引いてしまう。
自ら墓穴をドリルで掘るようなものだ。
そして大きな声では言えないが、ドロシアに頼らないにも賢明な判断だ。
「それにボクが知ってる中で一番料理上手なの、ランプキンだから!」
満面の笑みでそう答える彼女に、思わずランプキンも笑みをこぼした。
元々料理には自信があるが、まっすぐに誉められて悪い気はしない。
「おやおや、持ち上げても何も出ませんよ?
……さてと、さっそく準備しましょうか。
お菓子に使えそうな材料はだいたいストックしてますからね」
「ありがとう!」
気を良くしてキッチンに向かうランプキンの後ろを、グリルが嬉しそうについていった。