他の。

□05410-(ん)
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「どしたん?」


俺は、親友に声をかける。親友は、本来なら立入禁止の屋上に独り、おった。屋上に独り、五月晴れの空に似合わんくらい暗く、座りこんどった。

いつもなら教室で右に1列挟んだ2つ前の席の、嫌でも視界に入るブリーチした髪。さっきの授業、それが目に入らんくて、探しに来たらこれや。
テスト近いんやからサボったらマズいで?ノート見せて言うてきても知らんからな。




でも、座りこむ親友の背中が何かちっこく見えて、俺はテストんことやら何やら、口に出せへんかった。
代わりにもう一度、親友の方に足進めながら、

「どないしてん?」

訊いた。



親友は、その体をコンパクトな体育座りにしたまま、けど、下げとった顔を俺の方に向ける。
スピードスターなんちゅー、今時無いような二つ名に、全く似合わん陰気くさい顔やった。


「白石…」


親友は俺を呼ぶ。その声すら力無い。

あぁ、と、嫌な予感。






「俺な、フられた…」



聴こえた声は、色素の抜けたくせっ毛と一緒に、屋上に吹く初夏の風に揺れた。


あぁ、やっぱなぁ、嫌な予感が的中や。





少し前に、『俺…恋したかも知れへん…!』言っとったもんな、かわえぇ女の子見ながら。
まぁそん時は本気なんか分からんくて、「焦って早い内に告白したらフられんで、スピードスターさん」なんてからかったんやけど、ほんまにフられとるし。
あほや。





「いつフられてん?」
「さっきの昼休み」
「弁当早食いして、『用事あんねん!』て走り去った用事てお前、フられることやってんな…」
「ドあほぅ!んな訳あるかぁ!本当なら!俺は今頃彼女持ちになっとったっちゅー話や!」
「でもフられたんやろ」
「……」



テンポの良い会話の中、俺がザックリ返したると、親友はまた顔を寂しそーなもんにした。
そんな簡単に弱い姿見せられたら、『フられた上に落ち込んで授業サボるなんて女々しいわ!ドあほはお前や!』くらい言ってやろかと思っとった気持ちもかき消されて、少しだけ、申し訳なくなった。






「ごめんて。お前の金髪としょんぼりオーラがヒヨコみたいで、ついいじめてもうた」

側まで来とった俺は、その金髪に手を乗せる。柔らかい。
何だかそれがとても愛しくて、そのままワシャワシャ、かき回した。


「ちょ、おま、こしょばい、白石、やめや、ちょ、……ほんま…白石…お前ちょっとサディスト入っとるよな…」


突然頭を(少し乱暴に)ヨシヨシされた親友は、その手を振り払って、けれど俺を見上げて、そして少し笑った。
だいぶいつもの笑顔に近い顔。そや、その顔が似合うて、お前は。
安心しぃや。俺が戻したるから、いつものお前に。
色々深くは聞かん、言いたくないなら言わんでええ、俺はただ、お前が笑ってくれたら、幸せなら、ええねん。






「まぁでもな、謙也、」

ここで、親友の名を呼んだ。大切な親友の名前。


「謙也は、めっちゃえぇ男やから、」

「やからな、今回は駄目やったかも知れへんけど、えぇ彼女出来るで」



ほんとは、謙也に彼女がおらんなんて信じられん。そんくらい、お前はえぇ男や。
脚も早い顔も良い勉強だって出来るしノリもええ、勿論コレだけちゃう、謙也のええとこ、いっくらでもあるんや。



「何でそんなん…言い切れんねん…」

急に褒められたことに、戸惑った声。情けないやっちゃな。



だから、



「親友の俺が言うとんやで!こんだけえぇ男のこの俺が言うんやで!この俺が言うんやから間違い無いねん!
謙也はほんまえぇ男や!俺が保障したるわ!」



言ってやる。言ってやった。精一杯の友情で。謙也がまたいつもみたいに笑えるように。






「お前…それ地味に自分褒めとるやんか!」



ほら、笑ったやん。


その顔に釣られて、「事実やし」なんて言いながら、俺も笑った。







「よし、ほな謙也、教室戻んで!立ちや!」

謙也と一緒に教室に戻ろう。さっきの授業時間、たった1時間やったけど、謙也が居ない教室に違和感を持った。だからまたいつもの、視界の右に入る目障りな金髪でおってほしい。

少しだけ日に焼け始めた腕を取る。意外とあっさり、謙也は立ち上がった。



そのまま腕を引いて、歩き出す。
その時、



「…白石、ありがとな」


後ろから聴こえた声。
感謝の一言。ずっとこれからも、謙也の親友で居たいと思わせる一言。



「当然のことしただけや。テスト前に授業サボるようなアホ、ほっとけへんもん」


一度、謙也を振り向く。そして、宣告してやった。



「そん代わりアレやで!俺が沈んだり腐ったりしたら、謙也も俺をほっとかんといてな!待っとるからな!謙也がダメな俺んとこに来て、目ぇ覚まさせてくれんの、待っとるからな!」




こんな一方的な言葉にも、「当たり前っちゅー話や」と笑って返してくれたこの親友に、やっぱり俺は改めて、この友情を消したくないて、思うんや。

















100610

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大人しく蔵謙蔵のホモにすりゃ良かった\(^O^)/
タイトルはRAD。410が入ってる!と思って…けど内容あんま合ってない!







05410-(ん)=オコシテン-(ん)=オコシテ。起こして。

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