他の。

□対話の可能性
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「うっわ、お前それ痛くないん?」


めっちゃ久々に会った後輩は、相も変わらずの冷めた目で、でも当時から鬱陶しくちゃらちゃら付けとったピアスは、何や更に数増やしとった。

「別に痛いとか、無いです」
だるそうな、一応形式上言ってます、といわんばかりの敬語も変わらへん。

「ぃゃでも、流石にそれ、空ける時は痛かったやろ…」
俺が言いながら目線を落とした場所は、倍に増えた耳の飾りではなく、その薄い唇、の真下。
そこには、金属製の銀色が、ポツリ、と居た。

「え?口ピっすか?まぁそりゃ粘膜なんで、多少は痛かったっすけど、別にそんなに」
後輩は、銀色の小さな球体を、右手で軽くコツコツと叩きながら、言った。
あの、見とって痛いから、やめてくれへんかな。

「あー、ただ、たまにここ、水漏れはしますね」
「ごめん、想像すらできへんわ」

理解できん、ほんま理解できん、何やねん、何やねんこいつ、ピアス増えると同時に意味不明さも増しとんやけど。


「今度、ピアス、舌にも空けようと思っとんです。謙也さんには、想像できひんでしょうけど」
「えーと、想像もした無いんやけど」
「謙也さんも空けてみたらええやないですか」
「絶対嫌や!」


後輩は変わらない。
多分、後輩のチャラチャラしたピアスはこれからも増え続ける。
その内、顔中がピアスだらけ、金属だらけになるんかも知れん。
そうなったら、元々よぉわからんような表情も、更に分らんくなるんかな。


でも。


「相も変わらずド派手な金パなんやし、空けたら意外と似合うと思いますよ」


後輩は、笑った。分りにくいけど、微かに笑った。

こいつのピアスはどんどん増える。
俺の髪も、多分いつかは黒に戻る。
そうなっても俺は、きっとこの後輩と、ずっと変わらん関係で居れるんやろうな。

チカチカ反射するピアスを見ながら、そう思った。






110828
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口ピはたまにうっかり水漏れする、という話を聞いて、たぎった結果がこれだよ!

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