創作部屋

□アンクレット
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見えない所で、俺のものだと主張したくなるのは男として当然の欲求だろう俺は思っている。
少しでも悪い虫につかないように、注意して常に目を光らせているのは当たり前。
良い男を演じて、一人の男として見てもらおうと努力を怠る事はない。
そうでないとこの人の隣に立つ事は出来ない。
俺の好きな人は誰よりも優しく、強く、人望があって男前な人。
そんな人だから沢山の人に慕われて、必要とされている。
だから、時々不安になる事がある。



俺のいないところで、その手で誰に触れているの?
どんな声で話しているの?
その綺麗な目で何を見ているの?
どうして、なんでとぐるぐると考えて、不安になってしまう。
本当は四六時中傍にいて、甘やかして、俺がいないと駄目だって思って閉じ込めてしまいたい。
けれど現実は、そんな簡単に俺の願望が叶う事がないぐらい分っている。
だからって訳じゃないけど、これぐらい許してもらえますよね――――先輩。





「黄瀬・・・」

「なんっスか?」


久しぶりに先輩が俺の家に泊っていく日。
次の日に練習が無い日や、俺のモデルの仕事が無い日に先輩は俺の家に泊っていく。
そうするように俺が頼み込んで先輩を強引に連れ込んだ結果、いくつかの条件が揃えば先輩は俺の家に泊るようになった。
まだ泊る事に抵抗があるのかソファに座っていてもそわそわして、視線を俺と合わせないように視線をきょろきょろしている。
普段見せる姿と違う一面が見えて、可愛いなぁと思い先輩を甘やかしたくなる。
部活や日常生活の先輩は威厳があって堂々とした立ち振る舞いに、惚れ惚れとしてしまうのに、俺の前だとそんな姿を見せる事がなく初な反応が目につく。
嗚呼、俺しか知らないのかと思うと頬が緩んでしまう。
ソファに座ってすぐに、俺は飲み物を持ってきて先輩を後ろから抱き締める。
最初の事はジタバタと抵抗してきたが(何度、先輩の拳を受け止めてきた事か)、最近では慣れてきたのか俺に背中を預けてくる回数が増えてきた。


俺は「せ〜んぱい」とわざと甘えるような声を出して、先輩の肩に額を押しあててぐりぐりと擦る。
そうすると先輩は「はいはい」と呆れた声を出すけど、口調とは違い俺は髪を撫でてくれる。
先輩の事だから、「甘えたいんだろうな」って認識だろうけど、俺はわざと計算して声や仕草を選んでいる。
どんな事をすれば、先輩の態度や言葉が出てくるのか把握済みだ。
だからこそ俺はここぞという時に、泣きそうな顔と声を出して「先輩」と呼べば先輩の行動は決まっている。
「黄瀬」と呼び、優しく俺を抱き締めて「どうしたんだ?」って聞いてくる。
今にも涙が溢れそうな時は「涼太」と呼んで、「俺がいるだろう、だから安心しろ」って言って抱き締めて背中を擦ってくれる。
先輩の顔が見えない所で、俺が笑っている事を先輩は知らない。
先輩は純真無垢で俺みたいに穢れていない存在だから、真っ白で綺麗な先輩を俺は穢したくってたまらない。
俺の色に染め上げて、俺好みにして骨の髄まで可愛がりたい。
俺の愛で愛して、愛して、愛して、俺以外の存在なんて見えなくなってほしいのに。


今日は先輩にどんな事をしてあげようかと考えていたら、「黄瀬」と名前を呼ばれた。
返事をすると、先輩は真っ直ぐに俺を見あげてくる。
なんでも見透かすような視線を俺に向けて、「黄瀬」とまた俺の名前を呼んだ。
「どうしたんっスか?」と聞くと、「あのな」と言い先輩は右足をあげる。
先輩の右足にはこの前、俺がプレゼントしたアンクレットがキラリと光った。
バスケをするのに邪魔にならない大きさのゴールドのアンクレットは、なんだか足枷のように見えて俺はぞくりとした歓喜に似た感情が体中を駆け巡り震える。
数週間前の撮影の時、モデルの仲間が彼女にアンクレットをプレゼントしたと話を聞いた。
その時は何故アンクレットをプレゼントしたのか疑問だったが、今なら彼女にアンクレットをプレゼントした意味が理解出来る。
独占欲とか征服欲とでも言うのか、ぞくぞくとした真っ黒な感情が俺の中で掛け巡り支配する。



「アンクレットって元々は奴隷につけていたんだと。誰が誰の奴隷なのか分るようにってさ。それを聞いた時なんか「良いなぁ」って。こいつは俺のもんだって感じがして、俺がこいつのご主人様だって感じがさ」





その時の言葉が頭の中で何度も再生させて、俺の中で真っ黒な感情が大きく成長していく。
ゆっくりとゆっくりと成長したそれは、いつ俺でも制御が出来なくなるぐらいに大きくなっていった。
それぐらい先輩が好きで、大好きで気が狂いそうになるって事なんだって、どこか他人事に思い乍も俺の手にはアンクレットが握られていた。










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