小説ーMAR

□矛盾
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会いたくない 会いたい

嫌い 好き

見ないで欲しい 見ていて欲しい

そんな矛盾だらけの言葉


俺は何処まで行っても素直になれなくって。
いつも、いつも困らせていると思う。
分からないんだ、この感情が。
今まで、こんな感情はいらないって思って捨てた。
俺をずっと見ていたって言われた時
心の何処か温かくなったのと同時に冷たくなる瞳。

「好きなんや」

何度も何度も囁やかれる優しい言葉。
温もりを分け与える腕。
何もかもが失っていた、大事なモノばかり。

「……」

答える術を知らない俺は、躊躇ってしまう。
一人ぼっちでいるのを気遣っているのか、或いはほっとけないのか、気がつけば横にいる。
不思議で顔を覗くように見ると、ふんわり笑う。
包み込むように俺の手を握る。

「大丈夫やで。俺はここにいる。アルちゃんもここにいる。もう誰も君から消えたりせへん」

まるで、俺の心を読んだみたいな口振り。
握っている手からも想いがじんわりと伝われる。
その時俺は、あいつの顔をじっと見ている事しかできなかった。
何処までも優しい手つきで俺の髪を梳く。

こいつからして見れば「綺麗」な色だそうだ。
俺からして見れば何処が「綺麗」なのか分からない。

「綺麗」とはこいつのーーナナシの存在そのものじゃないかと思う。

何処までも優しく包み込んで、受け入れてくれる……そんな感じだ。

「……」
ぎゅっと握り返す。
驚いたナナシは見開いて手を見る。
けれどそれは刹那の出来事。
何もなかったように笑う。

「お前はいつも笑っているな」

思っていた事を口にして呟く。
小さな小さな呟きなのに、ナナシの耳にはしっかりと聞こえていたのか返事をする。
「やって笑とらんと女の子にモテないんやで」
ナナシらしい答えだと思う反面、俺の事はどうでもいいんだ……と思う。
ナナシは話を続ける。

「それに笑って、アルちゃんに笑顔になってもらいたいんや」
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