小説ーMAR

□白と黒と朱で
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見上げた空は満月で。
孤光として厳かに輝いているその月に、少しばかりの憎悪と軽蔑の眼を向ける。
その月を握るように手を翳す。
手の甲には黒々しくて消える事のないタトゥがある。
それを見て自嘲気味に口元を上げる。

滑稽だと思う。

裏返しにした掌にはある筈のない血が見える。
朱々しくて何処までもこの朱で染められてーー……

「何か嬉しい事でもあった?」

全ての元凶である人物の声が背後から聞こえる。
アルヴィスをお気に入りと断言してアルヴィスを弄ぶ。
振り返ると満足げに微笑む。
そうか。とアルヴィスはわかった。

見に来たとーー……

草を踏みつぶしてアルヴィスに歩み寄ってくる。
対して、アルヴィスはまるで金縛りでもなったように動けない。
月の光で逆光して輝く銀髪を持つファントム。
くぃっとアルヴィスの顎を上げて、自分の顔を見せる。
冷たい指から人の体温を感じさせない。
死人以外の何ものでもなかった。
「六年もたったからね。まさかこんなに美人になっているとは、思わなかったよ」
「……」
「こんなに綺麗になって……。変な男に捕まらなかった?あ、それともーー」
バシッと手を振り払う。
ファントムは、心外だな……と言う表情をした。
俺は力一杯に睨んだ。

お前が俺から大切な者を沢山奪った。

俺に憎悪以外の事を忘れさせて。

「生憎だが、俺はーー」

「ねぇ、そう言えばあの“ナナシ”とか言う男とはどんな関係?」

「ーーーー!!」

目を見開いてファントムを見る。
嬉しそうにファントムは笑う。
震える唇でなんとか言葉を繋ぐ。
「あいつとは、関係な……」
「僕には、おおありなんだけど」
耳元で囁く。

だめだ……だめだ……!!

頭の中で警告音が鳴り響く。
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