小説ーMAR

□消えないでと……
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アランさんが居なくなった……。
黒い塵が音を立てずに、遠くに飛んでいった。

…俺は静かに見ていた。

不思議と涙は出て来なかった。
罪悪感なのか分からないけど、モヤモヤした霧みたいな感情が沸き上がる。

気付かれないようにその場から逃げた。
何処でもいいから。
皆から離れたかった。
走っていたのか、歩いていたのか分からない。
気付いたら、真っ暗な林にぽつんと立っていた。
力が抜けて、座り込んだ。
静かすぎて耳鳴りがする。

「アルちゃん……」

低い声が静かに響く。
水面の波紋のように伝わる。

「ナナシ」

自分の声なのに、震えていると他人事のように感じる。
自嘲気味に笑ったら、ナナシはそっと近付いた。
手をぽんっと頭の上に置いて、よしよしと撫でる。
それだけなのに急に苦しくなった。

「……ぅっ……くっ……」

いつの間にか泣いていた。
声を噛み殺して、しゃっくりをあげる。
ナナシは何も言わず、優しく見ている。
最後に泣いたのは、何時だったのか覚えていない。

ダンナさんが死んだ時も泣かなかった気がする。
気がするだけで、本当は泣いていたのかもしれない……。
今みたいに。

今は、ナナシがいる。

出会ってそんなに一緒に居ないけど、俺の中でナナシは凄く大きくて。

ダンナさんやアランさんぐらいに大きくて。

ナナシに抱き付いた。
子供みたいで嫌だけど、うまく感情が制御が出来なくて。
ナナシも抱き返してくれた。

「アルちゃんが、元気になるまで此所に至るさかい。安心しぃ」

「…………」

「そしたら、皆の所に戻ろな」

落ち着いて、泣きやんだ。
ナナシと手を繋いで戻った。
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