小説ーうえきの法則
□独裁
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空が一際鮮やかな紅色に染まっていく。夕焼けと言う時間を知らせる。
ゆっくりではあるが,雲が流れていた。
そんな空に見守られ乍,とあるホテルの屋上に一人の男が佇んでいた。
暫く男は空を見ていたが,ポケットから煙草のケースを取り出した。
麻色の髪が,風に靡く。
いつものトレードマークの帽子を被っていない。
慣れた手付きで,煙草に火をつけて一服する。
肺にまで届くように吸い込み,煙を黄金色の空に吐き出す。
久しぶりだな....この味。
口元に再び煙草を咥える。
「なんだよ,先客いたのか」
聞き慣れた声が耳に届く。
振り返ると小林が立っていた。
眠たそうな眼で,髪を掻いている。
犬丸の所まで歩き隣に並ぶ。
「先にいてすみません」
困惑した笑みを浮べて,律儀に謝罪する。
「ふーん」とした表情で小林は犬丸を見る。
「珍しい事もあるんだな」
小林は犬丸の口元にある煙草を指す。
指された物を見て,犬丸は納得した。
確かに,小林が不思議に思うかもしれない。
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