星の降る街

□星の降る街
1ページ/38ページ

 真夏の夜の夢と言う有名な話があるが、

あの夏私が体験したことは、まさに真夏の夜の夢だったのかもしれない。



あの夏・・・私は私立M大学の、二年生だった。

就職活動もまだ遠い先と思っていたあの頃。

一年生の時のように右も左もわからないわけではなく、

学校にも慣れてそれなりに大学生活を謳歌していたあの年の夏。

今思い出しても、あの夏のふしぎな体験は忘れられない。



あれから数年経って、私は大学を卒業して就職した。

でも今でもあの出来事は忘れられない。

それほど強烈な、出来事だったのだ。

それならば焼き付いている光景を、今のうちに文章に残しておきたい・・

いつもそう思っていながら私は仕事に夢中になってしまい、

なかなか書き始めることが出来なかった。

最初の一年は、とにかく仕事を覚えるのに夢中だった。

その後、仕事を覚えると楽しいし、一人暮らしの気ままさから

殆ど仕事漬けの毎日になってしまっていた。

あの夏の事を書き残したい、その気持ちは変わってはいない。

でも普段の日は仕事で終わってしまい、家に帰れば寝るだけ。

やはりまとまった休みにならなくちゃ無理だよな、

そう思いながら夏休みや冬休みは、普段できない家の片付けや、帰って来いと言う親のラブコールにこたえて

なかなか手を付けるに至らない。


時間ないもん・・・

半ば言い訳のようにつぶやいて・・・そしてそのまま数年。


そんな私だけど、きっかけは先週のことだった。

テレビのニュースで、

『今年の夏は例年にない流星群の多い年』と言ったのを聞いたのだ。

流星群・・・流れ星の大群・・・。

漆黒の空に、絶え間なく流れる星。

そうだ・・・。あの鳥肌の立つような気持ち・・・。

私は、一気にあの時の気持ちになった。

あの時に戻りたい・・・。

そう思ったら、突然居ても立っても居られないほどの気持ちに駆られた。

書きたい!

今までの、何となく記録に残したい・・・という気持ちとははるかに違う。

まるで何かに追い立てられるような、そんな気持ちで、

今年こそ書いてしまおう・・・書ける!そう思った。

そうなると、もうすぐにでも書きたい・・

でも一気に書きあげたい私は、夏休みまで待った。

その待ち時間は、本当に長く感じていつもとまるきり違う感覚だった。

何か、やりたいことを無理に我慢しているような、感覚。

その気持ちがピークになった今日。

今までとは違う、溢れるような感情が早く文章にしてくれと言わんばかりに、

私の内から叫んでいるような気がする。

原稿用紙を用意して机に向かう。

こんなに落ち着いて机に座るのは、就職試験以来かもしれない。 

でもいざ、机の上の原稿用紙を目の前にすると何から書いていいのか、

頭がごちゃごちゃになってしまう。

今まで我慢していたものが一気にきたらしい。

『私を書いて』

とあらゆるエピソードが我先に指先に押しかける。

まあ、そんなわけで・・・話が前後してしまったり先急いでしまったりするけど、

その辺は素人の私が書くこと、と我慢して読んでほしい。

でも、私の経験した不思議な・・・どこか懐かしい感じのするあの出来事を・・

キラキラするあの想いを、思い出が薄くなる前にどうしても、残しておきたいのだ。

いつか誰かに読んで貰いたいのだ。

私は顔をあげ、はやる気持ちを静めるかのように、

窓から見える雲ひとつない青い空をじっと見つめた。

吸いこまれそうな、青い空。

そうだ・・・あの日も。


始まりは・・・まだ、夏になっていない梅雨の、真っ只中だった。

あの日も今日のように、雲ひとつない青い空が奇麗だったっけ・・・

そう、梅雨の合間のとても気持ちのいい日だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ