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□左手に予約(12×07)
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「東月先輩!」

振り返ると、木ノ瀬君は紺に近い黒色をした薄着のジャケットを持っていた。

「これなんてどうですか?」

キリッとした瞳は孤を描いていて、凄く楽しそうだと一目で分かる。
困惑している俺に構わず木ノ瀬君は肩に揃えてジャケットを体にあてる。

「思った通り、似合ってますね」

じゃあ買って来ます。と言ってレジに向かおうとする木ノ瀬君に慌てて手を伸ばした。

「ま…、待って!」


あんなに上擦った自分の声は久しぶりに聞いたよ。





店から出て、海沿いの喫茶店へと入った。
俺も木ノ瀬君も簡単にドリンクだけを注目し、直ぐに店員が持って来てくれた。

店員が去ったと同時に木ノ瀬君が口を開く。

「さっきの…凄く似合ってましたよ?」

残念そうに眉尻を下げて俺に視線を向けてくる。

「木ノ瀬君に贈って貰わなくても自分で買うから、ね?」

そう。服が欲しい、と俺から頼んだ訳でもないし、木ノ瀬君が買うとも何も聞いていない。
今日は木ノ瀬君が誘ってくれたから二人で街まで出かけ、服屋に入りたいというので断る必要もなく店に入った。
そこで木ノ瀬君が選んで持って来た物は俺も、良いな。と思って、それを感じ取った様に木ノ瀬君素早くレジに向かっていた。

「僕が好きで先輩に贈ってるんだから気にしないで下さい」

少し尖らせた唇は年下らしく可愛い表情だな、と思う。
羊や哉太がご飯をねだる時に似たような顔をするけれど、やっぱり“恋人”のものは特別というか何か違う。

「でも、Tシャツとベストだけで十分だよ」

そのしぐさについ顔が熱くなったのを感じるも、ここは先輩らしく振る舞う。
隣に置いてあった、中身は既に木ノ瀬君に贈られたTシャツとベストが入ってる袋を指した。


「知りたいですか?」

「え…?」

「僕が東月先輩に贈り物する理由、です」

俺は小さく頷いた。
木ノ瀬君の事だからいきなり突拍子もない事を言いそうで、何とか気持ちを落ち着かせる。

「先輩、明後日が誕生日ですよね」

「え……あ、7月1日…」

やはりといった所で、突然の言葉に思わず俺の思考は止まってしまい、しばらくしてから自分の誕生日が近い事を自覚する。

「一番近い休みが今日だったから誘ったんです」

「じゃあこれって…」


答えは一つしかないじゃないか。


「はい、僕からのプレゼントです」


今まで贈られていた物の正体が分かって俺は堪らず嬉しくなった。


でも同時に、木ノ瀬君があんなに服屋を巡っていたのが気になった。
誕生日ならもっと手軽に身に着けられるものが定番だと思ったから。
気になって尋ねると、顔が赤くなる結果が返って来た。

「先輩を僕の好みで染めたいんです。周りに威嚇の意味も込めて、」

「威嚇?」

きょとんとしている俺に不敵に笑ってから、木ノ瀬君は荷物の中からある物を取り出した。

「服も勿論そうですけど、僕からの本当のプレゼント受け取ってくれますか?」

テーブルの上に出されたのは片手で持てるサイズの箱。
受け取り、箱を開けると中には銀に輝くブレスレットが入っていた。

「綺麗、だね」

一体いつの間にか買っていたんだろうか。
光沢を浮かべる銀色のブレスレットは派手過ぎず、シンプルなデザインであるのに見た人を引き付ける美しさがあった。

「そのブレスレットには“ずっと一緒にいよう”って意味が込められてるらしいです」

「ずっと、一緒……」

もう一度、手の中の箱を見つめる。

「僕はそういうのはあまり信じないんですけど、最初の記念日くらいは形から、と思ったんで」

珍しく、照れくさそう笑う木ノ瀬君の顔に俺の全身の熱が上がった。
箱から取り出したブレスレットを俺の左腕にはめてくれる。


「僕と、ずっと一緒にいてくださいね」


何だか結婚式で誓いの言葉を重ねる瞬間のような振る舞いに気恥ずかしい。
手首で輝くブレスレットまでが熱を感じとって熱くなりそうだ。


「ありがとう…木ノ瀬君。凄く、嬉しい…」


うるさく波打つ心臓の音を抑えて、気持ちを伝える。
最後の方は掠れた声だったけれど木ノ瀬君にはちゃんと聞こえたようで満面の笑みを向けてくれた。




いつかその指に本当の指輪をあげます――――



「それまで大事にして下さいね」








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100HITリクだった積極的な12×07に、
話の設定が設定なんでサイト開設時点で過ぎていた『錫也誕生日小説』と言い加える。
(第1弾予定、です。ちゃんと主食にしている宮錫でも上げたいので…。)

あずま様のみお持ち帰り可、リクエストありがとうございました!



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