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□罪と罰(04×07)
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あの人はいつだって人を優先してしまう

自分に嘘を着いてまで

他人の幸せを一番に願ってる

あの日、子供の俺が最後に見たあの人の表情は


とても悲しそうな笑顔だった


正直に生きても、良いのに―――…






「こんなこと、俺が思っても…な」

あんな顔させたのは俺だ。
あの人に対してそんな事を思うのは、過去の出来事を忘れられない自分のエゴであり、精神的にも子供であった自分に対する後悔でしかない。

「今更どんな顔で…」

窓から差し込む光は全てを包むような橙色。
だけど、柔らかな夕焼けの光も今は俺だけを取り残して教室を染めていく。

「錫也?」

突然かけられたよく透き通る力強い声。
振り返ると、同じ黒を基調とした制服は夕日によって良く映えその存在を強調していた。


「不知火、先輩……」


俺の声は思ったよりも震えていた。
と言うより、喉から上手く声が出なく、何かが言葉を塞き止めているような感覚だった。



「こんな時間まで一人で何してるんだ、七海は?」

ここで月子の名前が出て来ないのは、今日は生徒会の集まりがあったから。
恐らく、執務に疲れた不知火先輩は息抜きと称して青空君から逃げて来たんだと推測する。
いつも月子が生徒会での出来事を笑って話すから。
何回も聞いたけど困った話だ。

「哉太ならもう帰りました。俺は日誌を書いてたんで、」

机の上に置かれていた日誌を手に取る。
日誌なんてとっくに書き終えていたけど今の俺には他に口実が無く、貴方の事を考えていました。なんて当然言えるわけも無くて嘘を着いた。

「そうか。そろそろ暗くなるから早く帰れよ」

生徒会も後は確認だけで終わるからな。と笑う姿に、俺に心配させまいと教えてくれたその台詞に、誤解してごめんなさい。と申し訳なく思う。

でも、どんなに思っても口にしなければ伝わらない。
俺はいつもこの繰り返しだ。

「大丈夫か?」

そうして立ち尽くしていたらいつの間にか不知火先輩が俺の目の前まで来ていた。
先程から何も話さなくなった俺を心配して、眉は少し寄ってしわを作っている。

「錫也?」

「っ…、俺はこれで失礼します…」

不知火先輩が肩に置こうとした手が触れる前に俺はその場を離れた。

まるで避けているような反応。

頭では分かっているのに、体は矛盾してしまう。
もし触れられたりしたら、全て言ってしまいそうな気がしたから。

「気をつけて、な…」

教室の扉に近づいた時にかけられた先輩の声音が少しばかり落ちた事に、俺は気付きもしなかった。






徐々に、俺の手から逃れ教室を出ていった錫也の足音が遠くなる。

錫也を行かせないようにする事なら出来た。
もう一度声をかけるとか、通り過ぎる瞬間に手を掴むとか、方法は幾らでも。
方法なんてどうでもいい、俺の中で、行かせたくない。 という気持ちが強く警報を鳴らしていた。


「…錫也は俺を許さない、」


けれど、俺の中であいつの存在は二度と触れてはいけない、焦がれるだけの存在だ。

あの日、二度と目の前にはもう現れない。と、そう誓った。
まさかこの学園で、こんな形で再開するとは思ってなかったが。


「いくら思ったって、」


自分に強く言い聞かせる。
行き場を無くした手は空中で拳を作り、白くなった手は確かに震えていた。


「伝えちゃいけない…」


錫也に避けられる悲しみよりも、俺があいつを悲しませる事が嫌だ。という気持ちが更に指に力を込めさせる。



「それでも…、」





「俺は…っ、錫也が好きだ……」





足音はもう聞こえない。
錫也に、誰にも伝えない気持ちを俺は今日も秘め続けてく。
吐き出すことの出来ない感情を溜め続けていく俺の様は許されることのない罪人と同じ。



今も昔も変わらずに

誰よりもお前を一番に思うから

俺は自分に嘘をつき続ける


ただ、一つ願いがあるとすれば



もう一度だけあの笑顔を向けてほしい―――…








拭う事の出来ない罪と、消えることの無い罰






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「0407でどちらも相手を好きだという事を認めたくない、認められない切ない感じ」
リクエストありがとうございました!
実は04×07も大変好きなので自分の為にも頑張って書かせて頂きました(←)

深波様のみのみ持ち帰り可です!




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