Main2

□欠乏する距離(11×07)
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(ドラマCD2の撮影後ネタです)



「今から確認入りまぁーっす!」


撮影現場に白鳥の大声が響き渡る。
脚本だというのに現場に来て、撮影の手伝いまでするなんて相当な物好きだ。
そう思ってから、白鳥も犬飼もこういう騒がしい事は誰よりも好きだったな。と訂正する。
それを別にしても俺から言わせればあいつが脚本だなんて心配でならないんだが、今現在監督と共に画面を真剣に見つめるその姿は普段の飄々とした態度からは想像も着かない。
ちゃんとやってるなら俺からは何も言う事は無いだろう。



「お疲れ様、宮地君」

いろいろと考えをめぐらせて息を着いた俺の元に、金久保部長が歩み寄ってきた。
その手にはがスタッフから受け取ったであろうペットボトルが握られていた。

「お疲れ様です」

例え撮影を終えても俺のこの人への態度は変わることはない。
信頼と敬意を込めて接する。


"Scorpio"という役柄は感情を表すことは少ない、だが心を許す者には絶対の信頼を寄せる。


初めて台本を読んだ時から俺によく似ていると思った。

「どうかした宮地君?」

「いえ、その…ようやく撮り終えたと思いまして…」

「そうだね。美術館での撮影の為にわざわざ学校を離れてこんな所まで来るんだものね」

すぐ後ろに建つ大きな建物を一目見て苦笑する部長は先程のLibraとの緊迫したシーン、そしてクライマックスである脱出シーンを撮影したとは思えないくらい穏やかだ。

「部長は素晴らしい演技でした。Taurusの複雑な心情をあんなに…見事です」

「ふふ、これでも結構大変だったんだよ?」

いつもと変わらない微笑みを見せる部長の姿に、俺もようやく撮影を終えたのだと実感が沸いて来た。

美術館の近くには海があると聞いていたが、今まで張り詰めていて感じなかった潮の香りが改めて遠くまで来たのだと再認識する。
再認識して、今ここには居ない東月を思い浮かべる。


「OKです、お疲れ様でしたー!!」

数分後にスタッフから発せられた撮影終了の声。

「これでやっと終わったね」

「はい。…部長、後の事は頼んでも良いんですか?」

この後、出演者達にはセットや機材を片付ける間少しだが時間がある。
陽日先生は「星月先生や水嶋先生を無理矢理誘って晩酌する!」と言っていたが、俺にはどうしても急ぐ理由があった。

「うん。僕から監督にも伝えておくから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

「宮地君も気をつけてね」

「はいっ」

後の事を部長に任し、俺は東月の待つ学園へと急いだ。






電車を乗り継いで星月学園へと戻った。
心の焦りに対し、一定の速度でしか走らない公共の乗り物は酷くもどかしい物だった。

「東月!!」

目星を付けてまず食堂に行けば予想した通りそこに居た最愛の人の名前を呼ぶ。

「宮地君!?まだ撮影のはずじゃ…」

大きく見開いた瞳は外界のものでも見たような驚いた表情、ここまで驚く東月の顔も珍しい。
まぁ、それも仕方ない。
本来の予定ならこんな時間に帰るはずではなかったのだから。

「帰って来るのは夜って……」

「予定より少し早く終わったんだ。それで…急いで帰ってきた」

「もしかして、俺の為に……?」

何も言わず頷くと、東月の頬が少し赤く染まる。
だが同時に、眉尻の下がった東月の顔は嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが織り混ざったものだ。
素直に喜びたくても他の、取るに足らない事を優先して考えてしまっている。
汗が滲んだ首筋や、前のはだけたスーツ姿を見れば分かるように、俺が急いで帰って来たという状況の為に。

「いくら撮影のためとはいえ、」

「うん…」

「その…、一緒に居られなくてすまなかった」

「宮地君は悪くないよ!今回出番の無い俺達までお世話になる訳にはいかないから…、んっ……」

焦れったい東月に遮るようにキスをした。
東月の為に、東月が寂しい思いをしているから、なんて言ったが結局は俺が東月を補給したかっただけなのかもしれない。

「ふ……はっ、みや…く……」

長らく手放していたその唇の熱を確かめるように唇をしっかりと重ねる。

「会いたかった、東月…」

「うん……。俺も…」

ずっと聞きたかった言葉を漸く耳に出来て、もう一度優しく吸い付いた。
久しぶりの東月の温もりを感じながら、頭に添えた右手で髪をすいてやれば、こちらも数日振りの甘さを含んだ香りに酔いそうになる。





「ねぇ、僕達も居るんだけど…」

「ほんっと宮地は世話が焼けるよなぁ」
「…哉太が言うと冗談にしか聞こえないんだけど」

東月の隣に座っていた土萌と向かいの七海が何か言っていたが、お構い無しに息苦しくなった東月が俺のスーツの裾を引っ張るまで溶け合うようなキスを続けてやった。



―――――――――――――――――
普段は寮なんで会おうと思ったら会えるんですよね。それが撮影で離れて、足りない!なお話。
(白鳥はオプションに近いので手伝いなんてしてないかもです。)

撮影は夜で次の日の朝には帰って来てる感じ…ですか?
(終電?そんなものは知らない←)



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