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朝、陸上部は早い。
この「古典的」な競技にスペースをとれる時間が少ないからだ。
早朝の5時、すでに部員は各々ウォームアップをはじめようと集ってきていた。
「お、要馬。おはよう。」
軽く片手をあげて部長が俺に声をかける。
「おはようございまーす」
いつものように棒読みの挨拶で俺はそれに応える。
お互いに競い合って、高めあっている仲間。
無愛想だからって誰かに何か言われるわけじゃない。
居心地がいい。
ストレッチをしながら周囲の会話にたまに耳を傾けてみたり、まだ白っぽい空を眺めたりしながらこの時間を満喫する。
トラックを周回しながら体の調子を整える。
身長165センチの標準体型。
どうせ大した記録は打ち立てられないが、それでも自分が未達成の記録へ辿りつけるかもしれないという期待を充分楽しめた。
部長と俺は同じ800m走者。
たまに向こうから話かけてきては、お互いに情報交換する。
「そういえば要馬、今度の大会は出られそうか?」
「どうかな、応援にはいきますよ」
オレンジの目立つ半パン・ジャージ姿の部長が白いタオルを首にひっかけながら話かけてきた。白い襟のシャツがちょうど朝日にあたって異様なほど白く見える。
「ええ…走るだろ? 俺の隣で走ろうぜー」
見た目も中身も人のいい部長はにかっと気持ちよく笑顔をみせて俺の肩をぽん、とひとつ叩いて水場へ向かう。
俺はどうしたものかと少し困った顔をしてから彼に続く。
先輩と同じオレンジのジャージの腕をまくって蛇口を開き、冷たい水にかがみ込み、顔と手とをひとしきり冷やす。
こんな時間がずっと続くんだと思ってた。
ひたひたとしたたる水滴をタオルでぬぐって顔をあげた。