長編 書き場

□紳士
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「君は飲み込みが早いね!」
「あ、ありがとう.....」

文字を教えてもらって3回目、つまり1週間でカメリアはハンター文字をスラスラと読めるようになっていた。

「そうだ!折角文字を読めるようになったからこの本も貸してあげるよ!」
「え、いいの?」

徐に取り出した本をカメリアに手渡しその本の魅力をネタバレしないように語りだす。成人男性とは思えない無邪気な姿にカメリアもにこりと笑った。
文字を教えてもらい、本もくれたお礼になにかしたかったが特に物も持っていなく自分にできることは1つしかないと男性に提案する。

「あの....お礼に念教える」
「念?」
「念、知らない?」
「初めて聞いたなぁ」

本来であれば一般人には念を知る機会などほぼ有り得はしないのだがカメリアからすれば念は身近存在だったことからそんな常識を知る由もなかったのだ。

「こんなことできたりする」
「わっ?!」

カメリアの念能力である”自在の砂鉄(ブラックキラー)”で砂鉄を浮遊させると男性の持っていた本に纏わり付きカメリアの方に引き寄せた。生き物のように動く黒い物体を見た男性は後ろ手をついて驚く。

「す、すごい!魔法みたいだね!」
「これは私の能力...人によっていろんな形があるの」
「へぇ!それは興味があるね!私でもできるのかな?」
「それは貴方次第」
「じゃあがんばらないとね。ところで名前まだ聞いてなかったね?私はビブリオ。」
「カメリア」
「カメリアちゃんよろしくね」

こくりと頷くとさっそくカメリアは念を会得するために精孔の開き方をレクチャーした
。ビブリオは本を読むことが趣味だったため集中力はズバ抜けていたため瞑想はすんなりとできた。その集中力を見たカメリアも会得までの道のりは程遠くないと悟った。
その日はここで解散となりカメリアは流星街にいて暇があれば本を読み、ビブリオは時間が許す限り瞑想を続けた。それから数週間でビブリオは精孔を開くことに成功し、基本の四大行を2ヶ月でマスターした。

「ビブリオさんこそ飲み込み早いね」
「そうなの?!結構時間がかかったと思ったけど....」
「普通はもっとかかるって聞いた。じゃあ次はこれ」

その日カメリアはビブリオにコップを持ってくるように要求していた。そのコップに水を注ぐと花畑に咲く花から一枚花弁を取ってそこに浮かべる。

「水見式。これに手をかざして練をしてみて。ビブリオさんの念の系統を知れるよ」
「そうなのか!ちなみにカメリアちゃんの系統はなに?」
「私は操作系。練をすると花弁が動くの」
「そっか!なんかわくわくするね!」

ビブリオが手をかざして水見式を始めた。するとだんだんと水の色が赤く変わってきた。

「色がかわった?!」
「放出系だね」
「放出系....」
「なにか思いつく能力はある?」
「一つ試したい能力はあるんだ」
「?なに?」
「それはできたら教えるよ!」

勿体ぶったように答えられてカメリアは一瞬ぶすっとするがビブリオはニカッと笑うとまた来週!と機嫌よく帰ってしまった。
それから1週間どういった能力にしたのか気になっていたカメリアはこの日を待ち遠しく感じていた。その様子をマチだけが気付いていた。

「どうしたのカメリア?なんかそわそわしてない?」
「えっし、してないよ!」
「最近本なんか持ってるけどどうしたの?」

マチからすれば明らかに様子の変わったカメリアになにか隠し事をされてると察した。

「う.....」
「私にも言えない?」
「じ、実は......」

流石に親友にずっと隠し事することに罪悪感を覚えたカメリアは誰も聞いていない場所まで移動して今までの出来事を包み隠さず話した。

「街以外の人とつるんでるの?!」
「そ、そんな言い方しなくても.....」
「それ長老が知ったら怒るんじゃない...?」
「う....マチ秘密にお願い.....」
「わかった。絶対バレないようにしてよね。あとその人が少しでも怪しいことしたら絶対逃げてよ!」
「マチ.....!ありがとう!」

素直に話してくれたことが嬉しかったマチはカメリアの気持ちを尊重した。
それからビブリオに会いに行くときには一言マチに伝えてから行くようにすることにした。
水見式をしてから1週間、次の約束の日になりいつもの場所に来たが、今日はまだビブリオは来ていなかった。

「あれ?」

普段なら絶対遅刻することはなかったがそんなこともあるんだなぁと思いつつその場に座って待った。するとふとオーラを感じてバッと振り向くと誰もいない空間にビブリオが現れたのだ。

「どうかな!ありきたりといえばそうかもしれないけど”空間転移(テレポーテーション)”便利じゃないかな?!」
「”空間転移(テレポーテーション)”.....ビブリオさんらしくていいと思う」
「私らしいか!」

一般人からすれば人を傷つけるための能力を選ぶことがそもそも考えつかないことかもしれないが便利という考えでこの能力を選んだビブリオに感心した。

「そうそう、私実は本を売っていてね。良ければ見に来ないかい?」
「えっ?」
「初めて会ったときに言ったかもしれないが、私の住んでいる集落がすぐそこにあるんだ」
「...行きたい」
「ほんと!よかった!じゃあ案内するよ!」
「うん」

これ以上は長老にまた怒られるかもしれない。と思いはしたが、まだ幼かったカメリアは好奇心の方が勝ってしまい承諾した。集落に行くと言うことはビブリオ以外の一般人とも対面することだが念能力者でなければいいだろうとだけ思っていた。

花畑から少し離れて森の中に入ると、程なくして人が住む景色が見えてきた。人口も30人程度の小さな集落のようだ。集落に入りビブリオが指差す先にはログハウスと並んで本が大量に詰め込まれた建物だった。
その建物には扉がなくオープンスペースになっており離れてても本がたくさんあるのがわかる。近くでみればどの本もすこし古びていた。

「私が扱うのは全部古書でね。中には物珍しさに遠くから買いに来てくれる人もいるんだ」
「すごい.....沢山の本.....」
「カメリアちゃんならいつでも読みに来てね!」
「ありがとう....!」

あまり長居することに躊躇いがあったカメリアは気になる本を一つピックアップして借りることにした。それからは特に会う約束はせず気が向いたときにお互い花畑に行って鉢合わせたりビブリオの集落にカメリアが足を運ぶようになっていた。







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