長編 書き場

□邂逅
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本を借りるようになってから読むときは必ず花畑で読むようにしていた。流星街で読むよりここで読む方が集中でき、とても心が安らぐからだ。
カメリアにとって花畑で本を読むことが初めての趣味になっていた。

「カメリアってばいつのまにかここに染まっちゃったね」
「マチが紹介してくれたおかげで私今とっても幸せだよ!」

週に一度はマチとも一緒に訪れ、花畑に寝転んで何気ない会話はしていた。

「本って面白い?」
「うん!私たちの知らない世界がたっくさん書いてあってととてもわくわくするんだ!」
「そうなんだ....カメリアが幸せそうでよかった」

マチと仲良くなる前はとても暗く周りをとても警戒し、感情をあまり表に出さないカメリアが今こうして笑顔でいてくてることがマチは心から嬉しかった。

「私やること残ってるから戻るけどカメリアはどうする?」
「これ読みかけだから全部読んだら戻るよ!」
「わかった。感想聞かせてね」
「うん!」

借りてまだ読み終わっていない本を今日中に返しておきたかったカメリアはマチと共に帰らず花畑で本を開いた。




「この本も面白かった」

残りを読み終わって本を閉じ顔を前に向ける。

「あ、そういえば最近花を見てなかったなぁ」

初めて訪れたときは花をずっと眺めていたカメリアがここ数ヶ月じっくりと見ることがなくなっていたことに気がついた。まだ日が落ちるまで時間があったので初心にかえって花を見ていた。

「やっぱり綺麗.....」

花を見るとやはり心が安らぐ。
その時ーーー

唐突に向けられた殺気にカメリアは慌てることもなく冷静に“自在の砂鉄(ブラックキラー)”で襲ってきた相手の腕を食い止めた。

「いきなりなに?」
「へぇ♠」

顔にはピエロのようなペイントを施し、変な喋り方をする自分よりは少し歳上のようだが子供だった。

「うーん♠こういうのは操作系かな?♦」
「これだけでわかるんだ?君子供なのにすごいね」
「いや、君の方が年下だろう♦」

マチ以外で初めてみた念能力を使える子供。かなり殺気を漏らしていたのでまだ未熟だとは思ったが頭が切れるようだ。

「君を殺したい♠」
「突然すぎて意味わからない」

殺すことを目的とした人間はそんなこと前もって言わないことはカメリアは知っていた。流星街を襲う人間は宣言なんてしないしこんな無駄話はしなかった。
恐らく好奇心。見た目も喋り方もまともじゃないから確証はないがきっと試したいのだろうとカメリアは思った。

間合いをとったピエロの少年はカメリア目掛けてトランプを数枚投げてきたが、”自在の砂鉄(ブラックキラー)”で千本を背後で複数生成し、全てのトランプを撃ち落とすと素早く間合いを詰め背後に回って蹴りを入れるがガードしてきた。

「(反射神経もいいんだ....)」

反射でガードしてきた所を見てすかさず逆足で次の蹴りを入れると少年は反応できず後頭部にヒットして蹴り飛ばされた。

「.......なんだったのこの人」

気絶した少年を見てはぁとため息をついた。
折角花を見てリラックスしていたのに気分を削がれたカメリアは読み終えた本を抱えると返却するためにビブリオの住む集落に向かった。

「ビブリオさん、本ありがとう!」
「やぁカメリアちゃん!また気になるものあったら持っていって!」

読み終えた本を元の場所に戻すと古書ばかりの本棚に一冊だけ新しめの本が目に留まった。

「?これだけ綺麗.....」
「あっ!それは!!」

カメリアが手に取るとビブリオは慌ててその本を奪った。

「ご、ごめん!これは私が書いている本なんだ」
「えっビブリオさん本書いてるの?」
「あ、あぁ....恥ずかしいな」
「読みたいなぁ」
「えぇ、恥ずかしいなぁ。でもまだ途中だから....それじゃあ書き終えたら最初の読者になってくれないかな?」
「もちろん!楽しみにしてるね!」
「ああ!がんばるよ!」

返却し終わって新しい楽しみができたカメリアは気分上々で帰路についた。いつも通り花畑を経由して街に戻るのだが先程の少年がまだ横になっていた。


「まだ寝てるの?」
「......♦」
「あ、起きた」

ちょうどカメリアが顔を覗き込んだ時に少年は気がついたようだった。

「なんで♠」
「なんでって...」

恐らく殺されそうになったのに殺さなかったのか...ということだろうか。

「別に私は君を殺したいわけじゃないし...」

ただこの綺麗な花畑は血で染めたくないだけなんだけど....

「ねぇ君なんていうの?♣」

戦意喪失した様子の少年の隣に腰掛けてると襲いかかってきた時とは一転して落ち着いた声色で名前を聞いてきた。変な口調は変わらない。

「カメリア。君は?」
「ヒソカ♠」
「ヒソカ、なんでいきなり殺しにかかってきたの?」
「気まぐれ♠」
「そう...」

やはり好奇心だったことがわかって満足した。
会話が途切れ沈黙が続くとヒソカの方から話を振ってきた。

「カメリアはこの集落に住んでいるの?♦」
「ううん。ここから少し離れたところ」
「念は誰から?♣」
「勝手に覚えた。住んでる街の人に念が使える人、それなりにいたから」
「へぇ〜♠カメリアは才能があるんだね♦」
「そういうヒソカもすごい才能じゃん」
「....君に言われてもあんまり嬉しくないなぁ♦」

殺意を向けてきた相手とこうやって何気ない会話をしてるのは不思議な感覚だが、歳の近い人間はマチ以外話す相手がいなかったので少し嬉しかった。
警戒心が少し抜けて頬が緩んでしまったが、それを見たヒソカが気まずくなった様子でちょっと目線を逸らした。

「あ、そろそろ帰らなきゃ....!」

普段なら日が暮れる前に帰るがもう辺りが暗くなってきていた。慌てて立ち上がり手を振って帰路についた。

「(慌てて別れちゃったけど、また会えるかなぁ)」







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