長編 書き場

□仮死
1ページ/1ページ






マチと仲直りした翌日、“盗み喰い(アビリティハンター)”によって念能力が使えなくなっているので能力は使用せず組手をしていた。

「わっ!マチってこんなに力強いんだね?!」
「一人で特訓していた成果はあったみたい」

念能力を使わなければ体術はほぼ互角だった。
知らない間にマチも成長していてカメリアも少し焦る。

「念能力ばかりに頼ってちゃダメだね....ちゃんと私も特訓しなきゃ」
「カメリアの“盗み喰い(アビリティハンター)”は便利だけどリスクも高いもんね」

数時間の組手を終えると並んで他愛もない会話を交わす。

「あ、そういえば決闘なんだけど。相手の子結構強いんでしょ?」
「うん、会うたびに強くなって...まだ勝てるけれど流石に最近危機感は感じてきてるんだ」
「カメリアが負けるなんてこと思ってもないけど何があっても”盗み喰い(アビリティハンター)”を2回使うなんてことしないでよね」
「わかってるよ!」

“盗み喰い(アビリティハンター)”は1度使用すると精孔が閉じて念能力が1日使用不可になる制約になっているのだが、無理矢理精孔を開き念を使うことは不可能ではない、がしかし誓約で仮死することになり、その後何かしら後遺症が残るか最悪の場合死に至るのである。
そのことについても知るマチはカメリアがいつか無理をしないか心配していた。

「ねぇ、その決闘観に行っちゃダメ?」
「心配性なんだから!マチは街で私の帰りを待ってて!勝ったら呼びにくるから!もしも負けたら、きっと泣いて戻ると思うからその時は慰めてよ」
「.....わかった」

マチはなんだか妙な胸騒ぎを感じたがカメリアの満面の笑みに気にしすぎか....とそれ以上はなにも言わなかった。

その日以降決闘の日まで花畑にも集落にも行くことなく毎日マチと手合わせをしていた。念を使わない修行は相変わらず互角だが念を使用するとカメリアが必ず有利に働いていた。

そして決闘当日ーーーー

「それじゃあ行ってくるね!」
「気をつけてね。カメリアなら絶対勝てる!」
「うん!ありがとう!」

カメリアは花畑へ向けて歩き出し、マチが見えなくなるまで笑顔でずっと手を振っていた。マチは苦笑いだったが同じく見えなくなるまで小さく手を振った。




「私ってば緊張してるのかな....結構早く来ちゃった」

ヒソカとの約束の時間より2時間ほど早く来てしまいかなり暇を持て余してしまっていた。

「1週間行ってなかったしビブリオさんのところに行こうかな」

ここ1週間マチと訓練ばかりしていたせいで本も読むことがなかったので決闘前に気分を落ち着かせようと久しぶりに集落に足を運ぶことにした。




「きゃああああああ!!」
「うわああああああ!!!」
「?!」

集落に近付くと突然断末魔が聞こえてきた。嫌な予感がしたカメリアは集落に全速力で向かう。

「な、なに?!」

集落に辿り着くと統一した服を着た見たことない人が数人集落の人々を襲っていた。
地面に目をやると数人うつ伏せや仰向けに倒れ、身体からは血を流していた。

「カメリアちゃん?」
「ビブリオさん!」

弱々しく名前を呼ばれた方を振り向くとそこには傷だらけで謎の集団から集落の人々を守るビブリオさんの姿があったがもう限界なのか集落の人に支えられないと立っていられない状態のようだ。
統一した服を着た集団は念を会得しているがやり手がいるようには感じなかった。恐らく盗賊かなにかだろう。ビブリオは念を会得した分集落の人間の中では1番対抗力はあるものの戦うために覚えた訳ではなかった上人数差が圧倒的で全く歯が立たなかった。

「あ?子供?」
「ん?この子供念能力者か?」
「所詮餓鬼だろ....ぐああああああっっっ!!!」

念能力者だということは即座に気づかれたが相手が子供だと侮った1人がカメリアに近付くと断末魔をあげて目の前でうつ伏せに倒れ、その背中には“自在の砂鉄(ブラックキラー)”で生成した漆黒の槍が突き刺さっていた。

「!なんだこいつ....」
「いつの間にそんな槍!」

突然現れた漆黒の槍に余裕の表情を見せていた盗賊たちが身構えた。
カメリアは背中に突き刺さった槍を手に取り引き抜くと盗賊たちに槍を向けた。

「誰か知らないけど集落の人たちに手出しするなら私が許さない」
「チッ....餓鬼だと思って舐めていたがこの人数相手に一人じゃ敵わねぇだろ!」

するとその場にいた盗賊たちは標的をカメリア1人に絞り全員でかかってきた。
カメリアは手に持った槍を振り回し、遠隔で千本を投げ飛ばし、敵からの飛び道具を生成した漆黒の壁で弾き返したりと敵からの攻撃を一切喰らうことなく倒していく。
それから30分もしないうちに盗賊たちは誰一人として立っているものはいなかった。

「.......」
「うっ.......」
「!ビブリオさん!!」

怒りに我を忘れていたカメリアはビブリオの唸り声にハッとし駆け寄った。全身ボロボロで呼吸も荒くこのままだと命に関わる状態だ。カメリアは周囲に残党が居ないか確認した後、“魔法美容師(まじかるエステ)”を使った。見る見るうちに絶望的だった状態のビブリオは回復しはっきりと意識を取り戻していった。

「!これは.....」
「私のもう一つの能力....リスクは多少あるけどね」
「す、すごい....カメリアちゃんはなんでもできるんだね。本当にありがとう」
「ううん。このくらいなんてことないよ!」

数人犠牲が出てしまったことは悔やまれたが最小限の被害で済み集落の人々からも称賛を浴びた。

「(念能力使えなくなっちゃったしヒソカと戦うの無理だなぁ...どうしよう)」

ヒソカとの決闘の時間も近づきそろそろ花畑へ向かわないといけないが”盗み喰い(アビリティハンター)“についてヒソカは何も知らないためどう説得させるか悶々としていた。

「ほう...面白い奴がいるんだな」
「!」

カメリア含めその場にいた人々が安堵していた矢先全員倒した筈だった盗賊であろう人物が1人木陰から姿を現してきたのだ。

「念の為気配を消して隠れてた甲斐があったな」

全員倒した後気配も探ったが全く気づかなかった。まさか絶で身を隠している奴がいるとは思っていなかった。念能力が
使えない状態でもわかる程オーラの量を感じる、こいつがおそらくボスなのだろう。

「そこのガキの強さに最初はそのまま身を引くか悩んだがどうやら今の能力でオーラが尽きたようだな?」
「(どうしよう.....このままじゃ全員殺される....)」

今の状態で念能力を再度使えばきっとカメリアは死ぬ。しかしこのままなにもしなければ全員が死ぬ。

「ごめんねマチ、約束守れなくて......」

決心したカメリアは誰にも聞こえないようにポツリと呟き凛とした顔つきになり、側にいたビブリオに小声で指示する。

「集落の人を連れてここから逃げて」
「えっ?!でもカメリアちゃん.....」
「全員死ね!」

カメリアの指示にビブリオが困惑していると盗賊の男が腕に装備していたクロスボウを無作為に撃ってきた。

「“自在の砂鉄(ブラックキラー)”!」
「なに?!」

飛んできた矢を咄嗟に砂鉄の壁で防いだ。オーラが急に戻ったことに盗賊が怯み今度は強めにカメリアは諭させる。

「今ここにいても全員死ぬの!だから早く逃げて!!」
「っ!」

ビブリオは唇を噛み締めて集落の人々を引き連れその場から離れていくしかなかった。

「チッまだ余力があったか」
「ギリギリだけどね、貴方を倒すくらいはできるかな?」
「このクソ餓鬼が!!」

無理矢理精孔を開いたカメリアは体力の消耗が激しく念は使えるが従来のようには使えなかった。息を切らしながら盗賊との攻防を繰り返し、盗賊の方も想定外の出来事に焦りより一層体力を消耗させていった。

「畜生!こんな餓鬼一匹に.....」
「残念だったね、貴方は私と一緒に死ぬの...」
「うるせぇ!!がっっはっっ」

怒りに我を失った盗賊が吠えた瞬間吐血をしなにが起こったのかわからない様子でその場に膝をついた。

「我を失ったら背後の攻撃に気付けなくなるよ。もう刺さってるけど」
「く....そが......」

その一言を最後に盗賊はばたりとうつ伏せで倒れ動かなくなった。
カメリアは息を荒らし足取り重く近くにあった壁まで歩くと凭れ掛かりずるずると腰を下ろした。

「はぁ.......ビブリオさんの本読みたかったなぁ...............マチともっと遊びたかったなぁ..............ヒソカと.....友達に....なりたかったなぁ..........みんなごめんね.....約束.........」

ぽろぽろと涙を零しながら心残りをポツリポツリと呟いて最後まで言葉は紡がれず目を閉じ眠りについた。








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ