長編 書き場

□困惑
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クロロとの約束の日。カメリアはメールで指定された場所に着き、扉の目の前に立っていた。

「……」

今のクロロは念が使えないのだから何も怖いことはないはずなのになぜか緊張していた。胸が高鳴り扉を開けるのを躊躇ってしまう。

「ふぅ……よし……」

大きく深呼吸して覚悟を決め扉を開けた。

「カメリアか」
「言われた通り、来ました」

中に入るとすぐ目に付く正面の大きなソファの真ん中で本を読んでいる頭に包帯を巻いたクロロの姿があった。部屋は薄暗く静かで、物も最低限のものしかなく、生活感は全くなかった。
読んでいた本から視線をカメリアに移すと栞を挟んで本を閉じる。

「それで….2人の決闘を止める為に私は何をしたらいいですか?」
「折角2人になれたんだ、少し世間話をしよう」

そう言いニコリと微笑むと、ソファの真ん中に座っていたクロロは左にズレると、隣に座るように指を差し促してきた。
どうやら今のクロロは団長としてのクロロではなくカメリアの知っているクロロのようだった。少し気を許してしまい促されるまま隣へ浅く腰掛ける。

「そんなに団長としての俺は嫌いか?」
「へっ?」
「俺の声と表情を見聞きするまではかなり警戒していただろ?」

少し悲しそうにカメリアの目を見て話すクロロ。しっかりと感情を表に出す姿は本当に幻影旅団の時の雰囲気を全く感じさせなかった。

「嫌い…と言うよりはあの時のクロロさんは私の知るクロロさんじゃなく感じて怖いだけです」
「そうか….」
「でも、今のクロロさんは怖くない….です」

否定をしたいわけではなかったので、咄嗟にフォローを入れるとクロロは一瞬キョトンとするが、柔らかい表情で微笑んだ。

「やはり、俺はカメリアに惚れたみたいだ」
「えっ?えぇ!?!?!?」

突然の告白にカメリアは驚いて立ち上がる。団長であるクロロの時から”奪う”や”俺のものになれ”とは言われていたが、面と向かって惚れたと言われると小っ恥ずかしくなった。

「そんなに驚くことはないだろ?」
「い、いや…なんというかクロロさんみたいな人はこう….かなりモテそうだなと思って….」
「そうか?」

内面的なところは置いて、街中を歩けば誰もが見惚れそうなほどに整った顔立ちをしているというのに自覚がないのだろうか。

「で、返事はいつくれる?」
「えっ?」
「俺はカメリアが好きだ。」
「へ、返事…..」

これまで恋愛に関して縁がなかったカメリアは初めての告白に困惑していた。恋愛感情がそもそも理解できていないのだ。

「す、すみません….私これまで恋愛に縁がなくてそういう感情がまだ….」
「だろうな」

申し訳なさそうに言うカメリアとは反対にわかりきったかのように余裕ある笑みを溢した。

「カメリアに俺を意識してもらえるように言っただけだよ。君はヒソカのことをずっと気にかけてるようだったからね」
「それは….」
「いつかちゃんとした返事を待ってる」

カメリアの発言を聞く前にクロロは話を区切ると、立ち上がりテレビのある方へ向かった。

「さて、本題だがヒソカにはグリードアイランドで除念師を探してもらっている」
「えっ、グリードアイランド?!」
「知ってるのか?」

グリードアイランドと聞いた途端勢いよく立ち上がったカメリアにクロロは一瞬呆気に取られた。

「あ、いや….名前だけなんですけど」
「そうか、それじゃあ一通り説明しよう」

そういうとクロロはメモリーカードと指輪を取り出し、グリードアイランドについて最低限のことを説明した。
人間を体ごとゲームの中に引き摺り込むことができるのはかなり非現実的ではあるが、真面目な顔で説明されるので信じるしかなかった。

「ヒソカはもうすでにゲームに入っている」
「!」
「そして、ここにもう1人ログイン可能なメモリーカードがある。ヒソカを追うか追わないかはカメリア次第だ」
「行きます。ゲームをプレイさせてください」

クロロの問いにカメリアは真剣な目つきで間髪を入れず答えた。

「愚問だったな。」

ふっと小さく笑うとメモリーカードと指輪をカメリアの手のひらにそっと渡して、またソファの方に向った。
受け取ったカメリアはゲーム機にメモリーカードを挿し、指輪をはめて手を翳したところではっとして振り返る。

「そういえば、どうして私にこのことを教えてくれたんですか?」
「さぁ?俺の発言でカメリアが左右されるのが面白いからじゃないかな?」
「うわぁ…それは趣味悪いですよ….」

読みかけの本に目を落としたままそう答えるクロロにカメリアは呆れながら改めてゲーム機に向き直り両手を翳して「発」をした。
その瞬間カメリアの身体はゲーム機に吸い込まれるように消え、本に目を落としていたクロロは顔を上げた。

「お前のその原動力はやはりヒソカなのか?」

その表情はどこか悲しげだった。








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