短編
□常識反対説
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理由のない苛立ち。それはその原因そのものが自分を取り巻く環境に紛れているからだ。
その環境に馴染んでいるものならばそれには気付かない。つまり、この俺はそうでないということ。
そう、俺はいろいろな意味で異端だった。
― 常識反対説 ―
思想、感覚、体験、外見。どれをとっても俺は『一般』とされるものから外れていた。
無論、望んだわけではない。気付いたらこうなっていたのだ。気付いたら、もう修正がきかなくなっていたのだ。
異端、ということは他からの扱いもそう優しいものではなかった。腫れ物に触れるよう、というのだろうか。とにかく、他は俺を理解しようとは、もとい近づこうとしないように見えた。
唯一人を除いては。
「お前また一人なのか。じゃ一緒に飯食わねェ?」
オレンジの髪の英語教師。あの男を形容するにはこういうのが一番わかりやすいのだろう。
この男もまた、教師としては幾分異端だった。自分の中に一本正義の芯を通しており、それから外れることをひどく嫌ったのだ。
そのせいだろうか、職員室では一人浮いた存在だったらしい。
それなのに、奴は誰からも好かれていたのだが。
「ほら、来いよナカジ。特別に俺様の大事なシュークリーム一個やるから」
甘いものは嫌いだ。俺が答えようとしたときにはもう既に時遅し。奴は俺の手を握り、ぐいぐいと職員室へ引っ張っていった。
俺達はそんな関係。
そんな関係のはずだった。
それが壊れてしまったのは、そんな奴の優しさを上回るほどに。
俺が異端だったのだ。
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