短編

□roots,
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「残念だわ。一京ちゃんは私を殺す役だったのね」

お姉さんは僕の短刀を見て悲しそうに呟いた。だけどどうすることも出来ない。だってこれが、僕にかせられた任務だから。

「ねぇ、折角だから聞かせて頂戴。私の殺される理由」

可哀相なお姉さん。
彼女は理由も知らずに死ぬところだったのだ。だが彼女にとってはその方が幸せだろう。
自分が殺した最愛の妹の借金のカタに命を奪われるなんて、知りたくもない。勿論僕も教えない。賢い人だからもしかしたらその辺は感づいているかもしれない。でも、僕は言わない。一度であれ面識のある知り合いだ、これは僕からのせめてもの情けというやつだ。


「ごめんなさい、お姉さん」

初めてと会ったのは2ヵ月前。
最近KKが新しい女を連れて仕事をしてるというから、興味本位で見に行った。彼が女性を仕事のパートナーにしてるのは知っていたが、彼女ではないらしい。変装の名人と呼ばれる、例の女性ではないらしい。
KKとは面識はない。だが彼の名はこの世界で比較的広まっている為ある程度の情報なら手元にあったのだ。

そこにいたのが、お姉さんだった。
金の髪。きらびやかなドレス。ヒトゴロシには似つかわしくない身なりの人だと思った。
ただその時の印象はそこまでで、それ以上は何もなかった。翌日偶然入った店のママが彼女だと気付くまでは。
暗殺業と水商売の掛け持ち。別にこういうことは珍しくもない。僕が興味を引かれたのはそういうところではない。似ていたのだ。


「お姉さんは、ホントに紫さんとそっくりだね」

彼女の肩が小さく跳ね、驚いたような目が僕を写す。
僕は、彼女の妹を知っていた。『知っていた』というような関係ではなかった。一時は恋人に近いものでもあった。僕は仕事の為に彼女を利用し、彼女は金の為に僕を利用した。互いに目的を達成しようと嘘をつきあった。
そして全てが終わったとき、初めてその名を聞いた。

「アタシ、本名は紫っていうの。これからも、よろしくね?」

これからも利用されてアゲルから、利用されておくれよ。
笑って、彼女はそう言ったのだった。




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