短編

□虚構の君
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好きです。
好きなんです。
愛しているんです、貴女を。

それはもう、狂おしいほどに。











† 虚構の君 †










なのに貴女は。貴女ときたら。


「ジズ!何をしているの早く来なさい!」
「待ちなさいお嬢さん。私は今お茶の準備を……」
「だったら早くなさい!このリデルの御呼び立てを聞けないとでも?」


やれやれ。今日の貴女は虫の居所が悪いようですね。
仕方がありません。愛しい貴女がお呼びなら、私は急ぐしかありません。






あぁ、リデル。
貴女が私と同じであればよかったのに。

貴女には実体がある。
それがひどい腐敗臭を振り撒く朽ちた躯でも、貴女には躯が。
しかし私は幽体の身。夜にならねばその躯に触れる事すら叶わない。


この想いを恋と呼ぶのなら、なんて悲しい恋でしょう。

貴女に触れることが出来ると思ったから、そう思っていたから貴女を殺したのに。
あの忌ま忌ましい躯から開放されると思ったからあんなことをしたのに。幽体の私が実物に触れられる夜を待って、貴女のその美しい顔に斧を振り下ろしたのに。


確かに貴女は絶命したのに。



何故、まだ躯が?













「馬鹿な男だ。そんなもの呪いがかかってるからに決まっているだろう」

耳元で魔女が囁く。
真紅のドレスを来た孤高の魔女。ロキ嬢とは違う、深い響きを秘めた声。

「貴様、あの娘が欲しいなら、私に縋れ。あの娘を生ける屍にしたのは我が姉。姉の呪術を解けるのは、姉と、私だけだ」



魔女は恐ろしいものだ。
わかっていてもわからなくしてしまう。拒絶を忘れさせる、蠱惑的な空気を持っている。


「さぁ、手を取れ。貴様に、選択肢など、ないだろう?」


真紅の魔女が、笑う。




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