短編

□空蝉の影
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敵襲。
火炎と硝煙が軍隊を襲う。

足元には仲間だった塊が幾つも転がっている。
人肉の焼ける悪臭が鼻をつく。吐き気が止まない。



「兄様兄様!敵襲です!」

瓦礫を踏み分け、漆黒の男が彼へと駆け寄った。
真紅と金糸の彼は苛々しながら男を睨む。

「兄などと軽々しく呼ぶでない。私が総司令官であるのを忘れたか」

「し、失礼しました、総司令官殿……しかし…!」

「わかっている」


真紅と金糸の彼、獄は目を細めて天を仰ぐ。

「ついに来やったか、天狗どもめ」

空には機械鳥が高く羽ばたいている。
黒々と翼を広げ、爆弾を落としながら飴色空を翔けてゆく。
街は、火に飲まれていった。



「臆したか、極卒」

「い、いえ……」

「ふん。たわけめ、声が震えている」

凄まじい敵軍の力にまだ若い弟は恐れを抱いているのかも知れない。
しかしそれは獄には関係のないことだった。彼はこの地を踏み締める最後の一人になろうとも、剣を捨てる気などなかったのだから。




「参りましょう総司令官殿。早急に、陛下達を安全な場所に避難させなくては」

彼の実の弟、極卒は真っすぐな目で獄を見つめた。
国と陛下への忠誠心。偉大なる大日本帝国を守るものとしての誇りがその目にたぎっている。
獄はそんな目に侮蔑の視線を返した。

「そんなもの、命の惜しい下級兵士にでも任せておけばよい」

冷めた答えだった。
どうでもよいとでも言わんばかりの言葉に、極卒も思わず声が大きくなる。

「しかし!陛下は総司令官殿に警護を任せると……!」

「何を必死になっているのだ、極卒よ」

獄はゆったりとした口調で極卒を窘めた。
その口に笑みを浮かべ、にぃと白い歯を見せた。


「そんな凡人一人消えたところで、気にすることではあるまい?」

いつもの、酷く歪んだ笑みで、獄は笑った。



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