短編
□player,
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三角に折って、もう一回折って四角にして。そしたら上下に開いて左右から折り込んで……
……わかんね。
いつもここで手が止まってしまう。ここから先が、どうしても思い出せない。
思い出そうとして試行錯誤しながらあれこれ折るものだから、すぐに折り紙はボロボロになる。その度に新しい紙に変える。気付けば机の上は折りかけの鶴で溢れていた。
「あー…もう覚えてねーよ、鶴の折り方なんてよー」
口に出してみると、やはりあの不良教師への不満が募る。
あの英語教師。剣道部の都大会出場を願うのは勝手だが、千羽鶴ぐらい自分たちで作ればいいのだ。それを無関係な自分に頼むなんて。
「馬鹿げてるよ…せんせぇ……」
俺だって忙しいんだよ。
昼はアイスクリーム屋、夜はホスト。掛け持ちしないとやっていけない。
見栄張っていいとこに住もうなんてするからこうなるのは分かってる。だけど一応ホストやってるわけだし、着るものとかには気を使わなくてはいけない。
要するに、金がかかるのだ。
「あぁ、もういい!ヤメだヤメだ!」
折りかけの鶴をくしゃりと丸め、ベッドに身を投げ出す。
目と肩が痛い。集中しすぎたせいだろうか。自分で肩を抱くようにしてみても、痛みは取れやしなかった。
「んだよー…勘弁してよぉ……」
机に積まれた真っさらな折り紙が威圧感を放っている。
先生はイイヒトだけど、どこか信用ならない。あの人、会う度酔ってるし、飲み屋で知り合ったから本名すら知らない。
てゆーか絶対元ヤンだと思う。教師のクセに頭オレンジなとことか。あれはダメだろ、アウトオブ常識。常識はずれもいいとこだ。
そんな元ヤン先生に頼まれたらやるっきゃない。だって、ぶっちゃけ怖いもん。
選択肢はないんだ。鶴を折るしかない。頼まれたからには、やる。
俺の意地でもある。
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