短編
□哲学者の甘美なる憂鬱
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「いやですねぇ。雨ですか」
「貴方と一緒に雨宿りする方がよっぽどいやです」
哲学者の甘美なる憂鬱
「帰らないのですか」
「帰らない、のではなく、帰れないのですよ。外はひどい雨ですからねぇ」
テント=カントはへらへらと笑いながら親指で外を示す。
外は土砂降り。
我らが神も無責任なものだ。雨を残して自分は早々に帰ってしまうなんて。
「神は何をお考えですかねぇ。我々をこんな淋しい所に閉じ込めて」
パーティーの終わった会場は明かりも少なく寂しげだ。
その静まり返った会場に取り残されたのはどうやら二人だけらしい。
「ねぇ、アルビレオ。雨は何故嫌われるのですかねぇ?」
テント=カントは唐突にそう聞いた。
アルビレオは答える気が、いや考える気すらなかった。彼は雨が嫌いだったし、それ以上に目の前にいるその男が嫌いだったから。
黙りこくっていると男は機械のようにもう一度同じ言葉を繰り返した。
どうやら黙っていても無駄らしい。仕方無しに口を開いた。
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